「定年を迎えたらいくら国から年金をもらえるのだろう?」「そもそも米国で年金をもらえる資格はあるのだろうか?」そんな疑問を抱かれている方も多いと思いますので今月は、米国公的年金制度について触れてみたいと思います。
原則
米国で年金受給資格を得るためには、一般的に10年間程度米国で就業する必要があります。公的年金制度としてのソーシャル・セキュリティー制度の制定により、受給資格を得るには40クレジットの納税実績が必要とされています。1クレジットは$1,130(2012年レート)の所得により獲得されますが、1年に獲得できるクレジットは最高で4クレジットであるため、通常受給資格を得るためには10年(40÷4=10年)を要すると言われています。
日米社会保障協定
しかし、2005年10月1日の日米社会保障協定発効により、次の条件を満たせば米国での社会保険税の納税実績が10年未満であっても受給資格を得られるようになりました。
① 米国で6クレジットの社会保険税の納税実績があること
② 日米通算で10年間、社会保険税の納税実績もしくは社会保険料の納付実績があること
日米社会保障協定に基づく年金給付額の計算は、駐在期間に受け取った給与水準が40年間続いていたら受けるであろう給付額に、最高クレジット数(140クレジット)のうち本人が獲得したクレジット数の割合を乗じて計算されます。
例えば、1960年生まれの方の年間給与が$100,000だとします。米国市民がこの所得水準で40年間に亘り制度に加入していると月額$2,312(2012ベース) の給付額を67歳で受け取ることができます。一時派遣駐在員が日米社会保障協定に基づき受け取る年金月額は、この最高給付額に上記した既獲得クレジットの割合を乗じて計算することにより見積が可能です。たとえば、米国で16クレジット獲得された方は、約$264($2,312×16/140=$264)の支給額が期待されます。
受給開始年度の選択
なお、上記の$2,312は満期退職年齢に受け取れる金額です。満期退職年齢は、誕生年が上昇するつれに引き上げられていき、誕生年が1937年以前の方は65歳ですが、その後、段階的に引き上げられ、1960年以降は67歳となっています。先に説明したとおり年金は62歳より受給できますが、満期退職年齢以前に給付を開始すると一定金額が割り引かれることになります。 現状、満期退職年齢よりも3年早く年金の給付を開始すれば、将来にわたり月額20%の減額となり、5年早く給付を受ければ月額30%の減額となります。一方で、満期退職年齢より遅く受給を開始すると一定金額が増加し、1943年以降の誕生年の方が受給を遅らせた場合、将来にわたり年間8%増額されます。
受給対象者
また、米国の年金制度は、納税者本人のみならず、18歳未満の子供、62歳以上の配偶者(米国での勤務経験を求められません)および62歳以上で再婚をしていない元配偶者にも家族年金が支給されます。ただし、支給額は納税者本人の50%となり、上記の計算例で言えば、給付額$264の50%である$132が支給されることになります。
以上、上記はあくまで計算例であり、米国の公的年金制度も日本の年金制度同様曲がり角に来ているといえ、退職が目の前に迫っている場合を除き、現行の計算が将来も適用され続けるという保証はありませんので、ご留意ください。
二重課税の回避
その他日米社会保障協定では、短期駐在については納税義務免除を定めました(日本の年金事務所より一時派遣規定の適用証明書要)。日本から米国への駐在を前提とすれば、2005年10月1日以降、米国への駐在年数が5年以内と予想される場合、米国での駐在員本人が支払う社会保険税および企業が支払う社会保険税がそれぞれ免除され、日本で厚生年金保険料の納付のみ必要となります。また、5年以下の当初予定期間を超過しての駐在がやむを得ず必要となった場合には、最長4年間の適用免除を延長することができます。
また、駐在開始当初から5年超の駐在と予想される場合には、米国での社会保険税の納税義務が発生するものの、日本での厚生年金保険料の納付が免除されます。したがって、従来日米双方で支払われていた社会保険税ないし社会保険料は、2005年10月1日以降、どちらか一方の国のみで納税ないし納付され、二重課税の回避となりました。