オバマケア

 

2010年にオバマ大統領の署名を受け成立された医療保険改革制度(通称オバマケア)の大部分がいよいよ来月から実施されます。開始日が近づくに伴いテレビや新聞ではオバマケアに関するニュースが頻繁に取り上げられていますが、その内容について詳しく説明が行われていないため、理解されていない方が大勢いるようです。そこで今月はオバマケアについて大まかな事項を税務の観点から話をしたいと思います。

 
オバマケアとは

ご存知の通りアメリカでは診療料金を自由に設定する事が認められているため、医療費や保険料が高額となり、その結果多くの人々が高額な民間医療保険に加入していない、または加入できない現状があります。オバマケア(正式名称 The Patient Protection and Affordable Care Act of 2010)は、こうした問題を解決するため、医療保険への加入を全国民に義務付ける事により全体の医療費や保険料の高騰を抑えるという医療制度です。アメリカ市民、永住権保持者はもちろんの事、国籍に関係なく米国税法上居住者とみなされる人々全員が加入義務の対象となります。

 
影響を受ける方

オバマケア実施によりいろいろな業種・納税者が影響を受けますが、特に影響を受けると思われる方を次に挙げてみました。

 • 無保険者(個人)
医療保険が加入義務となるため、現在保険を持っていない方は何らかの形で影響を受けることは必至です。現在、個人または会社を通して医療保険を購入されている方は特に影響を受ける事はありませんが、その保険内容がオバマケアのガイドラインに沿う事が条件となりますので、ご留意ください。
 
 • 中小企業(事業主)
50人以上の従業員を抱える事業主は、従業員に対して医療保険を提供する事が義務付けられます。また従業員の定義も通常の週40時間勤務ではなく、週30時間以上勤務をする者を従業員として数える事と定義されています。
 
 • 医療保険会社
2014年から持病、健康状態または過去の病状・入院歴を基準に保険料を設定する事が禁じられるばかりでなく、それを理由に保険の加入を断る事が出来なくなります。また一定額を年会費として納付する事が義務付けられます。

 
違反した場合(罰則規定)

保険を購入しなかった場合、$95または収入の1%の何れか大きい方の金額(2015年は $325 または 収入の2%、2016年は $695 まはた収入の2.5%)が罰金として科せられます。ただし一部の例外者を含む、海外在住のアメリカ市民、海外在住の永住権保持者、また申告義務のない方は自動的に罰則の対象外となります。

雇用主に対する罰則の適用は1年間延期され2015年から実施となっています。また50人以下の従業員を持つ雇用主はこの罰則規定の対象外となっています。

 
主な税務変更事項

オバマケアに関連する莫大な費用を補填するために、いろいろな税法が新たに設けられました。次に挙げるのは、興味深い税務変更の一部です。

 • 医療機器販売への課税
医療機器製造業者、医療機器輸入業者は売上に対し2.3%の使用税を納付する事が義務付けられます。
 
 • 日焼けサロン業者への課税
日焼けマシンを使用してサービスを提供する業者は、サービス料金に対し10%の使用税を納付する事が義務付けられます。ただしスプレーまたはクリームによる日焼けサロンは対象外となります。
 
 • 美容整形への課税
内国歳入法(Section 213(d)(9))で認められた美容整形以外の美容整形費用に対し、5%の使用税が課税されます。
 
 • 医療費積立金に対する変更
医療費積立金(Health Saving Account)として積み立てたお金を適格医療費以外に使った場合の罰則金が現行の10%から20%へ引き上げられます。Flexible Saving Accountの税前積立金額も年間最高 $2,500 に設定されるため、限度額が設定されていなかった前年と比べ節税効果を得る事が出来なくなります。また以前まで適格医療費として認められていた店頭販売の薬(Over-the-counter drugs)も不適格扱いに変更されます。適格医療費以外に使った場合の罰則金も医療費積立金同様、現行の10%から20%へ引き上げられます。
 
 • 医療費控除の上限引き上げ
項目別控除の一部として認められている医療費控除の上限率が現行の7.5%から10%へ引き上げられるため、2013年から控除できる金額が減少いたします。ただし65歳以上の納税者は2016年まで現行の7.5%が特別に認められています。
 
 • 投資所得への課税
上限(独身 $200,000、夫婦合算 $250,000、夫婦個別 $125,000)を超える納税者の投資所得(利子、配当、使用料、賃貸収入、譲渡収益など)に対し3.8%の税金が課税されます。米国非居住者また非居住期間(二重身分申告の場合)に受取る投資所得は課税対象となりません。
 
 • 医療保険税(Medicare Tax)の増税
高額所得者に対して申告身分別上限(独身 $200,000、夫婦合算 $250,000、夫婦個別 $125,000)を超す所得に対して、追加で0.9%の医療保険税が課税されます。
 
 • Form W-2への報告義務
従業員に医療保険を提供している雇用主は、源泉徴収票(Form W-2)のBox 12 に医療保険費用の記載し報告する事が義務付けられています。ただし源泉徴収票の発行数が年間250枚以下の場合は、現在のところ任意報告となっています。この報告義務は、会社から医療保険を受けている従業員に対し保険費用の情報提要を目的としており課税所得には影響ありません。
 

著者あとがき

一般家庭の財布に直接影響を及ぼす重要事項、また膨大な変更内容にも関わらず直前で新たな問題が浮上したり、肝心のウエブサイトが不具合で支障をきたしたりと不安感は拭えません。また納税者がその内容をしっかり把握していないため、誤った理解をし混乱をさらに助長しているように思われます。

何れにせよ少々面倒で複雑な制度ですので医療保険を購入する必要のある方は専門家に相談する事をお勧めいたします。

 

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