給与税の減税案

 

米中貿易摩擦が悪化し、長期金利が短期金利を下回るなど景気後退の兆候が見られる中、トランプ大統領が先日記者団に対して話した給与税の軽減案。現時点では単なる提案に過ぎませんが、予想のつかない行動で選挙公約を次々と有言実行し続ける大統領の言動は目が離せません。再選に向けた単なるパフォーマンスなのかその真意は分かりませんが、今月はトランプ大統領が何を提案しているのかその内容について話をしたいと思います。

 
給与税とは

給与税という言葉で一括りにされていますが、一般的に FICA (Federal Insurance Contributions Act) として親しまれている給与税は、日本の厚生年金保険にあたる制度で社会保険と医療保険の資金調達を目的とした二本柱の税制を指します。

社会保険税 (Social Security Tax) は老齢年金、遺族年金、障害年金の資金を捻出する為に設けられた税金で、従業員と雇用者がそれぞれ額面給与額の 6.2%(計 12.4%)を社会保険税として納付します。医療保険税 (Medicare Tax) に比べ税率が高く設定されていますが、課税対象額の上限(2019年度は $132,900)が設けられているため上限を超える給与に対しては課税されない仕組みとなっているため、最高納付額は一人当たり年間 $8,239.80 ($132,900 x 6.2%) に制限されています。

医療保険税 (Medicare Tax) は高齢者または障害者の医療保険料の資金を捻出する為に設けられた税金で、従業員と雇用者がそれぞれ額面給与額の 1.45%(計 2.9%)を医療保険税として納付します。社会保険税とは違い医療保険税には課税対象の上限が設けられていないため、額面給与額に対してそれぞれ1.45%の課税が行われます。所得上限(独身者は $200,000以上、夫婦合算は $250,000以上)を超える高額所得者は、追加で上限を超える分に対して追加で 0.9% が課税されます。

 
過去の事例

記憶に新しいと思いますが、実はオバマ政権の元同様の給与税軽減策が2011年と2012年に実施されました。当時の減税は、従業員負担分の社会保険税率が 6.2% から 4.2% へ引き下げられ、雇用者負担分の社会保険税と医療保険税に変更はありませんでした。

リーマンショック後に停滞した経済を活性化する目的で導入された減税措置は、年間約 1,000億ドル規模の減税効果があったと言われていますが、ある著名な経済学者によれば期待されていた程あまり経済効果が発揮されなかったと分析されています。また本来の目的達成どころか社会保障基金の税収減を補填するために一般基金から減額分を補ったため財政赤字を増やす結果となったと言われています。

 

オバマ政権時の減税内容

給与税区分 従業員 雇用者
社会保険税 4.2% 6.2%
医療保険税 1.45% 1.45%

 

トランプ大統領の減税案

現時点でトランプ大統領が提案している給与税の減税案が実際に導入される保証はありませんが、仮に施行された場合、オバマ政権同様に2%の減税が行われると予想されています。年収が $50,000 の納税者は、給与の手取り額が年間 $1,000 (50,000 x 2%) 増える計算となり、全体では年間約 1,500億ドル規模の減税効果があると算出されています。また今回の減税案は、雇用者も対象になる可能性があり実際に施行となれば更なる減税効果が期待されます。

ただし、殆どの政府高官が導入に消極的な姿勢を取っており、その経済効果も疑問視されています。仮に導入が決定されても米中貿易摩擦による経済不安から個人消費が冷え込み、前回同様結果的に税収減により財政がより一層悪化すると大方が予想しています。

 

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