個人間送金に対する租税強化

 

インターネットで買い物をする際に送金サービスPayPalを利用して決済を行われた方はいらっしゃるのではないでしょうか。近年はスマートフォンを利用した送金が簡単になってきたため、ZelleやVenmoなどの送金アプリの利用者が急速に増えてきているようです。またコロナ禍の下、感染予防策として現金を利用する人が減っているため、今後ますますキャッシュレス決済が増えると予想されています。今月は、手軽に利用できる個人間送金について話をしたいと思います。

個人間送金

P2P (Peer-to-Peer) に部類される個人間送金は、デジタル環境で生まれ育ったミレニアル世代(1981年から1996年生まれ)とZ世代(1997年から2012年生まれ)の間で急速に普及している決済サービスで、主な代表としてVenmo、Cash App、Zelleなどが挙げられます。送金アプリは直接お金を管理するのではなく、登録されたアカウントが登録者の銀行口座またはクレジットカーと紐づけされ、同じネットワーク内のアカウントに対して送金指示を行う機能と理解ください。送金アプリは、食事代を割り勘する際にお互いに送金をしたり、またはサービスを提供した業者に対して決済手段として活用されているようです。

AmazonやeBayなどで売り買いを行った場合、同サイトを運営している側がIRSに対して情報申告を行いますが、個人間で直接物を売り買いした場合、IRSはその取引情報を入手する事がかなり困難となります。その為、クレジットカード会社を含めた送金サービス業者に対してある一定の条件を満たす商取引に対して取引内容の情報申告を義務付けいています。

送金情報の規制強化

前述のとおり、送金サービス業者に対して取引内容の情報申告を義務づけていますが、対象となる商取引が年間総額 $20,000 を超え、且つ取引件数が年 200 件を超える事が条件となっていたため、多くの商取引情報がIRSに開示されない状態が続いていました。

その問題を解決すべく、昨年税制改定が行われ情報申告の対象条件が年間総額 $20,000 から $600 を超える商取引へと大幅に減額されました。新しいルールは2022年1月1日から適用されるため、該当する方は来年から取引額がIRSへと報告される事になります。今回の改定は、あくまでもIRS側が課税対象となる所得の情報把握を目的としており、単なる資金の移動追跡を行っているわけではありません。その為、家族間または友人間で行われる送金は報告の対象外となります。

Form 1099-Kとは

所得税申告の必要書類としていろいろな書類を受け取られた経験があるかと思われます。従業員として働いている方は源泉徴収票 Form W-2 を雇用主から受け取り、個人事業主として活動されている方は支払調書 Form 1099-NEC を取引先から受け取ります。住宅を賃貸されている方は、支払調書 Form 1099-Mics をテナントまたは不動産管理会社から受け取ります。年金を受給されている方は、年金受給明細書 Form SSA-1099を社会保障庁から受け取ります。利息または配当などを受け取っている方は、支払調書 Form 1099-INTや 1099-DIVを金融機関から受け取ります。

前述のように、所得の種類によってそれぞれ指定の様式を発行され、クレジットカード会社または送金などを扱う決済代行サービス会社(総じてThird Party Networkと呼ぶ)は、金銭の受給者に対してForm 1099-K を発行する事が義務付けられています。またForm 1099-K は他の様式同様に同じ情報がIRSに対して報告される仕組みになっています。

規定上、Form 1099-Kの報告義務は年間総額 $600 を超える場合と定められていますので、状況によって Form 1099-K を受け取らないケースもありますが、Form 1099-Kを受け取らなかったからと言って租税を免除されるわけではありません。その為、課税対象となる所得を受け取った方はForm 1099-K の有無にかかわらず対象となる所得を申告する義務がありますのでご注意ください。

個人用と商用の識別

個人用アカウントと商用アカウントの識別がどのように行われているのか詳細を把握していませんが、送金サービスを提供している業者は、それぞれ独自の方法で識別を行っているようです。PayPalとその子会社Venmoは、送金を行う際に自己責任で個人用または商用の何れかの選択を行う事をユーザーに義務付けているようです。また金銭の動きを分析して個人用、商用何れかの判断も行っているようです。

商用で頻繁に金銭取引をされている方は、ビスネス専用の口座を開設し、個人使用の口座とは区別してお金を管理する事をお勧めします。また監査の対策として日頃から適切な記帳管理を行うと共に関連書類(銀行口座明細書、レシート、税務関連書類など)を保管する事が重要となります。

あとがき

今回の情報申告規制強化により今後は課税所得の申告漏れが減少する事が予想されます。結果的に納税が増える事になりますが、現代社会において社会貢献の一部を担う事になりますので胸を張って頂いたいと思います。また課税所得を適切に報告する事でローン審査の評価に繋がったり、また将来受給しうる年金額に考慮されますので、プラス思考で「善かれ」と捉えてみては如何でしょうか。

 

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