ここ数年類を見ない上昇率で高騰し続ける物価。景気回復に伴う爆発的な需要とそれに追いつかない供給とインフラ問題。紛争による原油価格の高騰と近年の経済状況は日々悪化し、一般家庭の生活費に重くのしかかっています。一般家庭の経済的負担を少しでも緩和すべくバイデン大統領が、ガソリン税の一時緩和策を提案しました。今月はガソリン税の概要を紹介しつつ、ガソリン税の一時緩和策について話をしたいと思います。
ガソリン税の歴史
連邦道路管理局の記録によるとガソリン税は1919年2月にオレゴン州で導入されたのを皮切りに、同年にコロラド州、ニューメキシコ州とノースダコタ州の4州で導入されたのが始まりとされています。その後、他の州政府も同様の税法を施行し、10年後の1929年に当時アメリカ合衆国に加盟していた全48州(アラスカ州、ハワイ州を除く)でガソリン税が導入されました。一番最後にガソリン税を導入した州はニューヨーク州とマサチューセッツ州で、導入年は1929年となります。
連邦レベルでガソリン税が導入されたのは1932年で当時は1ガロン当たり1セントを徴収していたようです。ガソリン税はフーバー第31代大統領政権時に施行され、当初は世界大恐慌によって税収がひっ迫していた財政の補填を目的として導入されました。その為、同税制は元々1933年に有効期限が切れる時限法でしたが、その後施行期限の延長が行われ、最終的に1941年の歳入法 (Revenue Act of 1941) によって恒久化されました。
テキサス州とガソリン税
テキサス州政府によると同州で車両登録が開始されたのが1917年で、当時すでに19万台の乗用車と5千台のトラックが走行していたようです。テキサス州では1923年にガソリン税の課税が開始され、導入当初は1ガロン当たり1セント徴収され、1927年に3セント、1929年に4セントへと増税されたようです。
1931年当時のテキサス州ではガソリンを「自動車に動力を供給できる原料」と定義していたようですが、1941年にガソリン、ディーゼルと液体ガスの3種類に区分を開始し、それぞれ1ガロン当たり4セント、8セント、4セントを課税するようになったようです。その後、数回税率を変更をした後1984年から一律の税率を採用するようになったようです。現在テキサス州ではガソリンおよびディーゼルの税率は1ガロン当たり20セントとなっており、1991年から変更されていません。
州別でガソリン税率を比較した場合、全米で一番ガソリン税率を高く設定している州がペンシルベニア州で(1ガロン当たり57.6セント)、カリフォルニア州(1ガロン当たり51.1セント)それに続きます。税率が一番低い州はアラスカ州で(1ガロン当たり8.95セント)、ハワイ州が(1ガロン当たり16セント)二番目に低い州となります。(2022年1月時点)
ガソリン税は全ての消費に対して課税されるのではなく、連邦政府またテキサス州内の公立学校で使用される車両やスクールバスなどはガソリン税の対象外となります。また道路以外で使用する機器(モーターボート、芝刈り機、農作業器具)に対する消費も課税の対象外となっています。
ガソリン税収益の用途
ガソリン税は、道路工事や道路整備費用の補助を目的として導入されましたが、テキサス州では収益の3/4を道路補修事業に、残りの1/4を教育費として活用しているようです。少々古いデータになりますが、2018年度のガソリン税の収益は37億ドルで、州財源の 6.6% を占め、4番目に多い財源のようです。(財源割合の1位は売上税、2位は車両レンタル税、3位はフランチャイズ税)
ガソリン税の一時緩和策
去る6月22日にバイデン大統領が、三ヶ月間の連邦ガソリン税停止を提案し、議会でその内容について協議するよう要請しました。また同時に各州政府に対しても同様な緩和策を講じるよう呼びかけました。
現時点の連邦ガソリン税は、1ガロン当たり18.4セント(ディーゼルは1ガロン当たり24.4セント)が徴収されているため、消費者は各居住地の州ガソリン税に連邦税を上乗せした税金が課さられています。前述のとおりテキサス州は一律20セントを課税しているため、ガソリン1ガロン当たり合計38.4セント、ディーゼルの場合1ガロン当たり44.4セントを納めている計算になります。実際にガソリン税が一時的に停止されるか予測できませんが、専門家の中には根本的な問題解決にならず、連邦ガソリン税率が18.4セントとそれ程高くないため、経済効果は薄いと指摘されているようです。また原油価格に直接影響を及ぼさないため、仮にガソリン税の一時停止を行っても消費者が恩恵を受けられる保証が無いと見ている専門家もいるようです。
インフレ上昇に合わせて毎年調整が行われる自動車マイレージ控除 (Standard Mileage Rate) も近年の原油価格高騰を受けて異例ともいえる年度中の変更を行いました。2022年度自動車マイレージ控除額は、1マイルに付きそれぞれ4セント増額され事業用途は現行の58.5セントから62.5セント、通院・医療用途は18セントから22セントへ変更され7月1日から年度末までの適用となります。慈善事業用途は変更されず、現行の14セント据え置きとなります。