仮想通貨の留意点

先月、暗号資産交換業大手 FTX が突然経営破綻しました。破綻の影響は関連業者にもおよび、仮想通貨市場の混乱に対する警戒感が高まっています。去年の11月にビットコインが 約 $68,000 の最高値をつけてから約一年後にこのような状況に陥るとは誰もが想像できなかった事でしょう。今月は、FTX経営破綻に関連する事項に焦点を置いて検証を行いたいと思います。

仮想通貨の現実

去る11月11日に暗号資産交換業者 FTX が、連邦破産法第11条の適用を申請して経営破綻しました。業界内での破綻としては最大規模となり、仮想通貨市場はもとより経済全般への影響が懸念されています。もともと仮想通貨市場は、ハイリスク・ハイリターンと認識されていましたが、昨年まで記録を塗り替える高値で取引が行われていたため、リターンの側面が大きく取り沙汰され、リスク面が軽視または業界があえて避けていた可能性を否めません。現にテレビのコマーシャルでも仮想通貨に関連する宣伝や広告が頻繁に放映されている事からも実感できる事でしょう。

現時点で法定通貨として仮想通貨を採用している国は、エルサルバドルと中央アフリカ共和国の二国のみで、その他の国は導入には慎重な姿勢を示しているのが現状です。法定通貨として認めていない国家は、仮想通貨をに対する補償を行っておらず、証券や株式などと同類の資産として取り扱っています。

国家補償

アメリカ国内の銀行に預金をされている方は、FDIC Memberという文言を目にした事があると思われます。FDICはFederal Deposit Insurance Corporation(連邦預金保険公社)の短縮表記で、預金を保護する事を目的に1933年に設立された政府機関で、銀行が破綻しても一定の金額までは預金が保証される仕組みが整っています。現在FDICに加盟している銀行は 5,000 行に上り、加盟銀行の預金者一人あたり 25万ドル(共同名義の場合 $50万ドル)の預金額が保証されています。ただし、全ての銀行がFDICに加盟しているわけではありませんので、機会があれば読者の皆様が預金されている銀行がFDICに加盟しているか確認する事をお勧めします。(FDIC加盟先検索リンク

Credit Union(信用金庫)は、FDCIではなくNCUA (National Credit Union Association) が預金に対する補償を行っており、FDCI同様に加盟金庫の預金者一人あたり 25万ドル(共同名義の場合 $50万ドル)の補償を行っています。(NCUA加盟先検索リンク

仮想通貨業者に対する補償

先月経営破綻したFTXは、法定通貨としては認められていない暗号資産を取り扱っているため、FDICおよびNCUAに加盟していません。その為、FTXに預けている資産(仮想通貨の預金額)は保証されていないため、仮に預金額を回収できなかった場合、損失した資産に対して保証は行われません。

キャピタルロス(譲渡損)

前述のとおり、アメリカは国家して仮想通貨を法定通貨としては認めていませんが、有価証券などの資産として取り扱っています。その為、仮想通貨の売買取引によって得た譲渡損益(キャピタルゲイン・キャピタルロス)に対して租税を行います。現行の税法は、実際に売却した資産に対する実現損益が課税の対象となります。その為、損益が確定していない含み損益(主に為替変動などの影響によるもの)は、課税の対象外となります。

FTX経営破綻の取扱い

前述のとおり、FTXはFDICまたNCUAの何れにも加盟していませんので、FTXに預けている預金(仮想通貨)に対して保証は行われません。また、現時点で法人として連邦破産法第11条に申請しているため、預金額に対して損失が確定していない状況にあります。現行の税法は、確定した損益に対して課税が行われるため、アクセスが凍結されたFTX資産に対する含み損に対して譲渡損を申告する事が出来ません。

今回のケースは全く新しい租税事項となるため、連邦破産法第11条に基づいてFTXの再生手続きを行う裁判所の判断が注目されています。その為、FTXに関連する暗号資産損益の租税は、対応をしている裁判所が判断を下すまで先延ばしになります。全ての預金者に対して預金額が全額返還される事を望みますが、改めて仮想通貨に対するリスクとリターンについて再考する機会として捉えて良いでしょう。

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