銀行破綻の対策

5月1日に中堅銀行 First Republic Bank が経営破綻しました。3月に破綻したSilicon Valley Bank、Signature Bankに続く今年3行目の破綻となり、規模としては過去二番目に大きい破綻(総資産額 2,290億ドル)となりました。サブプライムローンを発端とした2008年の金融危機で多くの地銀が経営破綻しましたが、私達は金融危機から何を教訓として学んだのでしょうか。今月は、今回の銀行破綻の原因と対応策について検証をしたいと思います。

銀行破綻の原因

専門家の間では今回の銀行破綻と2008年の金融危機は大きく要因が異なり、前回のような連鎖的な経済混乱は招かないと予測されているようです。その理由として2008年の金融危機は、返済能力の低い債務者に対して過剰な貸し付けを行った事による資金回収の悪化が原因で金融業界全体が負の連鎖反応を起こしたと考えられています。

今回の銀行破綻は、富裕層を主な顧客として抱えていた銀行が、景気後退を懸念した顧客がリスクを回避するため一斉に預金を引き出した事で銀行が資金繰りに瀕して経営破綻に陥ったと分析されています。その為、今回の破綻要因と影響は限定されていると考えられ、前回のような大規模な連鎖反応は起こらないと分析されています。それでは何故、前述のFirst Republic Bankを含めSilicon Valley Bank(3月10日破綻、総資産額 2,090億ドル)やSignature Bank(3月12日破綻、総資産額 1,100億ドル)が破綻したのでしょうか。

破綻の要因は複数挙げられますが、直接的な原因として預貯金の保証限度額を超える現金の損失回避として富裕層が資金を引き出した事により銀行が資金繰りに窮したと考えられています。

FDICとは

アメリカ国内の銀行に預金をされている方は、FDIC Memberという文言を目にした事があると思われます。FDICはFederal Deposit Insurance Corporation(連邦預金保険公社)の短縮表記で、預金を保護する事を目的に1933年に設立された政府機関です。簡単に言えば、銀行同士がお互いに保険を掛け合い、加盟銀行が破綻した場合、一定額の預金を保証する仕組みを整えています。現在FDICに加盟している銀行は 5,000 行に上り、加盟銀行の預金者一人あたり 25万ドル(共同名義の場合 50万ドル)の預金額が保証されています。

ただし、全ての銀行がFDICに加盟しているわけではありませんので、機会があれば読者の皆様が預金されている銀行がFDICに加盟しているか確認する事をお勧めします。(FDIC加盟先検索リンク

Credit Union(信用金庫)は、FDCIではなくNCUA (National Credit Union Association) が預金に対する保証を行っており、FDCI同様に加盟金庫の預金者一人あたり 25万ドル(共同名義の場合 50万ドル)の保証を行っています。(NCUA加盟先検索リンク

前述のとおり、今回の銀行破綻の引き金になったのは景気後退を懸念した富裕層が、預金保証限度額を超える預金額に対して一斉に資金の引き出しを行った事による金融機関側の資金繰り悪化が原因だと分析されています。

預貯金保護対策

金融機関がいくら「保証」や「安心」を謳っていても保証されている限度額は法的に定められていますので、預貯金をする側としては保証額を理解したうえで最大限の対策を講じるのは必然的でしょう。

リスク回避の対策として先ず現在利用されている金融機関がFDICまたはNCUAに加盟されているか確認する事が重要でしょう。インターネット銀行などの振興金融は、加盟していない(または条件を満たさないために加盟できない)場合がありますので、注意が必要です。利用されている金融機関が保険公社等などに加盟していない場合、貯金先を加盟銀行に変更する事でリスクを回避する事が考えられます。

保険公社による保証上限額 25万ドルは、一行一人に付き保証されている金額となりますので、上限を超す預貯金をお持ちの方は、複数の加盟金融機関に口座を分散する事でリスクを回避できます。また同じ金融機関の口座でも共同名義の場合、保証上限が 50万ドル (一人当たり 25万ドル)になりますので、夫婦の場合、個人名義を共同名義に変更する事で手軽にリスク対策を取る事が出来ます。

FDICやNCUAは預貯金に対する保険制度となりますので、貯金以外の資産(証券、債券、投資信託、仮想通貨、生命保険、年金保険、地方債、貴金属など)には適用されませんので注意が必要です。

あとがき

1929年の世界大恐慌後に、金融制度の安定と制度に対する国民の信頼確保を目的にFDICが設けられました。制度施行当初の保証上限額は 2,500ドル でしたが、その後数回限度額が見直され、2008年の金融危機以前の保証額は1980年に改定された 10万ドル でした。その後、約30年間上限は変更されませんでしたが、金融危機を機に上限が見直され2010年に現行の 25万ドル に保証額が変更されました。

今回の銀行破綻に対してFDICの保証上限額を見直す動きが出ており、金融機関に対する監査基準の引き締めを含め業界に何らかの変更が行われるのは必至でしょう。

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