租税条約って

 

今年初め、「日米両国が、日米租税条約の改正案に署名した」というニュースをご覧になったかたも多いと思います。これは2004年以来の改正となる新条約ですが、そもそも租税条約とは何なのでしょうか? 今月は租税条約について簡単に説明し、今回の改正案についても少し触れてみようと思います。

 
租税条約とは、国際的な経済活動の拡大に伴い、国境を越えて移動している人・物・金に対して生じる二国間の課税問題回避のための取り決めです。米国では国際間の二重課税が生じる場合には外国税額控除を認めることにより、国際二重課税の排除を可能にしています。しかし、各国はそれぞれ固有の税法を持っており、相手国との税法の国際課税関係の規定が上手くかみ合うとは限りません。この場合、課税権の競合が生じ、国際的にビジネスを行う納税者は著しい不利益を被ることにもなりかねず、ひいては国際経済の健全な発展をも損なう事になってしまいます。

 
このような二国間の課税問題を排除することにより経済取引を円滑に進めることを目的として租税条約が締結されています。租税条約は次のような二国間の課税問題を排除するよう規定を定めています。
 
(1) 二重課税の排除
(2) 困難な課税問題の排除
(3) 過大な課税の排除
(4) 脱税の防止

 
現在、日本は64カ国と租税条約を締結しています。これは、日本の対外直接投資残高ベースでいえば、80%を上回るものだそうです。

それでは、日米租税条約が役立っている身近な例を一つ紹介します。日米両国とも、居住者はすべての所得(全世界所得)に対して課税され、一方、非居住者は、国内の源泉所得のみについて課税されます。非居住者の場合、所得の源泉地が課税所得を認識する上で重要となってくるのですが、そもそも源泉地とはなんなのでしょうか。簡単に言うと、「働いた場所」を意味します。例えば、日本から出張にきて、米国で数日働いた場合、その間に受け取っていた給与は、例え日本の会社から支給されていたとしても、源泉地は米国となり、その給与は、米国源泉所得となります。それでは米国で1日でも仕事をすると非居住者も米国で課税されてしまうのでしょうか。米国税法の特例により、以下の条件をすべて満たせば、米国源泉所得とは見做されず、非居住者の所得は米国で非課税されないことになっています。

 
(1) 米国源泉所得が$3,000未満
(2) 給与が日本の会社から支払われている
(3) 米国の滞在が90日を超えない

 
このような特例がありますが、厄介なのは、(1)の条件です。例えば、年収一千万円の日本人が米国に出張に来て8日間仕事をしたとします。年間の就労日数が240日で、為替レートを一ドル百円とすると、この方の8日間での米国源泉所得は$3,333 (=$100,000 x 8/240日)となり規定額を超え、米国源泉所得が発生し、米国で課税される可能性がでてくるわけです。

このように、数週間での出張で米国から課税されてしまっては、日米間の経済活動に支障をきたします。そこで登場するのが、日米租税条約です。

日米租税条約上、以下の条件をすべて満たせば、米国で課税される心配はありません。

 
(1) 米国での滞在が課税年度に開始または終了するいずれの十二ヶ月の期間を通じても、合計183日以下(183日ルール)
(2) 日本会社から給与が支払われる
(3) 給与が米国現地法人に負担されない事

 
このように、租税条約と国内法とが相違する場合には、租税条約が優先適用され、日米の経済活動を円滑に進めることができる仕組みになっているわけです。租税条約では、このような外国人への課税のルール以外にも、利子、配当など様々な所得への課税方法について触れられています。

 
今回の改正では、これまで10%となっていた利子への税が原則として免税にかわります。配当への免税も「持ち株割合が50%以上で株式の保有期間が6ヶ月以上」であれば対象となり、現行条約の「持ち株割合が50%超、保有期間が12ヶ月以上」よりも免税の範囲が広くなります。

米国で利子が免税になると、日本企業は利子にかかわる税を日本で納めることになります。米国から日本へ利子を支払うたびに源泉税を納付する必要がなくなり、資金管理にも余裕が出ます。米国で支払った利子への税を日本の法人税額から差し引く手続きも省け、事務負担が軽くなるでしょう。

 
今回改正案に対し両国政府が合意に至りましたが、改正された項目が直ちに施行されるのではなく、今後両国で批准手続きの終了を待つ必要があるります。改正の恩恵を受けられるにはもう少し時間が掛かるようです。

 

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