市民権または永住権を放棄する際に手続きが面倒である事は想像に難くありませんが、状況によって税金が発生する事はあまり知られていないのではないでしょうか。2年前に続き、今回また同様の質問を受けましたので今月は市民権・永住権放棄に関する税務事項について話をしたいと思います。
国籍離脱税
近年、米国市民また米国居住者に対する税務申告が強化されるにつれ税務申告などの規則を順守する手間や経費がかさむようになりました。その結果、市民権または永住権を維持する事への魅力が薄れ、それらを放棄する人が年々増え続けています。また租税回避を目的で市民権や永住権を放棄する裕福層が後を絶たないため、それら放棄者に対する規則が年々厳しくなっています。
特に後者の放棄者に対し厳しく取り締まる税法が導入され、その結果ある一定条件を満たした国籍離脱者または永住権放棄者に対し国籍離脱税 (Expatriation Tax) が課税されるようになりました。
課税対象者
国籍離脱税は、市民権または永住権を放棄した全ての人が自動的に対象となるわけではなく、米国市民または長期居住者 (Long-term Resident) で、且つ次の何れかの条件に該当する離脱者 (Covered Expatriate) が対象となります。米国での居住期間が10年以下で、且つ出生により二重国籍を取得した方、または18歳と6ヵ月未満の未成年が放棄をした場合、例外として条件 (1) と (2) の免除を受けますが、他の放棄者同様条件 (3) を証明する事が義務付けられています。
[ 対象条件 ]
- 過去5年間の平均所得税額が 16万ドルを超える離脱者(2015年度金額)
- 放棄日時点での純資産額が 200万ドル以上ある離脱者
- 過去5年間の所得税申告の提出を証明できない離脱者
長期居住者とは
永住権を放棄した年から遡って過去15年間の内8年上永住権を保持した方は国籍離脱税の対象となる長期居住者として取り扱われます。また年間の計算方法は、永住権を保持していた日が1日でもあればその年を1年として数えるため、最短で6年と2日で長期居住者としての条件を満たすことになります。
例えば、2009年12月31日に永住権を取得し2016年1月1日に永住権を放棄した場合、実際に永住権を保有した期間は6年弱となりますが、2009年と2016年もそれぞれ1年として加算されるため、長期居住者の条件を満たす8年として取り扱われます。ただし、実際に永住権を保持しつつ租税条約を適用する事により米国外の居住者として取り扱われた場合、その年については永住権の保有年数として加算はされません。
課税対象資産
国籍離脱税の対象となった場合、その個人が所有する純資産額に対して税金が課せられます。純資産額の算出法は、時価評価方式に基づいて所有している全ての資産をあたかも売却したと仮定した「みなし」売却益に対して課税され、市民権または永住権を放棄した日の前日の市場価格をもって算出されます。みなし売却益から最大 69万ドル(2015年度金額)を控除する事が認められていますが、上限を超える金額に対して国籍離脱税として税金を納付する必要があります。
みなし売却益に対する税金が発生した場合、納付を実際に資産が売却される時まで繰延べすることが認められていますが、その場合担保を差し入れる事が義務付けられています。また国籍離脱税申義務があるにも関わらず申告を怠った場合には、最高で 1万ドルの罰則金が課せられますので注意する必要があります。課税対象となる純資産額の算定に影響を及ぼす放棄日は、次の何れの最も早い日をもって決定されます。
[ 米国市民の場合 ]
- 米国大使館または領事館などで国籍放棄申請書を提出した日、または
- 国務省に国籍放棄申請書を提出した日、または
- 国務省が国籍失効証明書を発行した日、または
- 裁判所が市民権を取り消した日
[ 長期居住者の場合 ]
- 永住権放棄申請書(様式 I-407)と共にグリーンカードを返還した日、または
- 移民局により国外退去を命ぜられ米国を出国した日、または
- 租税条約を適用し米国外の居住者となった日