大統領選挙運動基金

 

今月号が発行される頃には次期大統領が選出されているでしょう。実際に投票をされた方、また投票は行わなかったものの選挙結果をテレビ中継で静観された方など様々いらっしゃると思われます。ちょうど大統領選挙が行われた月という事もありますので、今月は大統領選挙にまつわる興味深い制度について話をしたいと思います。

 
$3 チェックボックス

「大統領選挙運動基金へ$3 を割り当てたい方は、次の欄にマークを付けて下さい。マークを付ける事で貴方の納付額、また還付金が変わる事はありません」

毎年提出される個人所得税申告書(Form 1040)の右上に前述の質問文が記載されている事に皆様お気付きでしたか。俗に「$3チェックボックス」と呼ばれるこの質問項目の存在を殆どの納税者が知らない、または誤った理解をしているのが現状のようです。「納付額、また還付金が変わる事はありません」と明記されているにも関わらず殆どの方が自分の還付金から差し引かれるのではないかと疑心暗鬼になっているそうです。それでは、その資金はいったいどこから出資されるのでしょうか。

質問欄にマークを付ける事で追加で $3 の税金を徴収されたり、同額を還付金から差し引かれることは無く、実は所得税として納める税金の一部から $3 を選挙運動基金へと割り当てる仕組みになっています。割り当て額は納税者一人に付き $3 となっており、夫婦合算申告の場合、最大で$6の税金を選挙運動基金へと割り当てる事ができます。

 
基金設立の背景

基金設立の背景には、企業や裕福層などからの献金依存を抑制し選挙が中立で公平な立場で行える事を目的に20世紀初頭に草案されたようです。その後、草案が数回改訂され、現在の基礎案が確立されたのは1970年代初期の頃でした。所得税の一部を選挙基金へ割り当てる法案は1971年に可決され、実際に施行されたのは1974年になります。

当初、選挙基金へ割り当てられる金額は納税者一人に付き $1 でしたが、1994年に現行の $3 へと引き上げられました。また実際に基金が選挙運動に使われ始めたのは1976年の大統領選挙の年でその歴史はまだ浅いと言えるでしょう。

基金の管理は連邦選挙管理委員会が行っており、主に大統領立候補者の基金利用資格の確認、基金運用の監査を行い、資金の配給は米財務省が行います。未消化の資金については全額基金に返還する事が義務付けられており、次選挙に利用されるそうです。

 
近年の動向

開始当初は利用者が多かった同プログラムですが、近年は年々減少しており、1980年の利用率 28.7% をピークに2015年は 5.4% へと落ち込んでいるようです。納税者の利用率が減少している主な理由として次が挙げられ、所得が低くなるにつれて参加も減少しているようです。

 
[ 近年基金への資金協力が減っている理由 ]

  • 現行の税法に対して不満がある
  • 選挙運動に対して税金が使われる事を良く思っていない
  • 同プログラムの事を良く理解していない、またはその存在に気づいていない
  • 選択をする事で納税者本人の金銭的負担が増えると勘違いしている

(Tax Foundation 調べ)

 
基金から配分された各選挙年度の総額は、資金が初めて投入された1976年の 7,300 万ドルを皮切りに、2000年には 2億4,000万ドルまで上がりましたが、前回の選挙年度である2012年には 3,790 万ドルの資金が配分されたそうです。また2012年は民主党、共和党両候補が共に基金を利用しなかった初めての年のようです。ちなみに過去同制度を利用した大統領候補者の中で最も多くの資金を受けたのは、クリントン元大統領、レーガン元大統領、ブッシュ元大統領(父)、ドール元上院議員、ブキャナン元首席報道官の順になるそうです。

ご存知の通り投票はアメリカ市民しか行えませんが、投票権が無くとも基金へ資金提供を行い、より公平な選挙運動を支援することにより間接的に選挙に携わる事ができます。もし「$3チェックボックス」にお気づきでない読者の方がいらっしゃいましたら、来年所得税の申告を行う際に確認してみては如何でしょうか。

 

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