残業手当

 

今月の1日から施行予定であった残業手当に関する雇用法が連邦裁判所の判断により土壇場で差し止め命令を受ける事となりました。今月は、雇用主にとって大きな影響を与えうる残業手当ルールの改訂内容、及びそれらを取り巻く動きについて話をしたいと思います。

 
背景

最低賃金を含む雇用法の見直しを進めるオバマ政権が、残業手当に関する改訂内容を発表したのは今年の5月の事でした。改訂内容は、主に事務職に従事するホワイトカラーと呼ばれる雇用者を対象としており、施行日は2016年12月1日となっていました。2004年以来変更の無かった残業法が見直される事により、労働省は420万人がその恩恵を受けると試算していました。

現行のルールでは週40時間以上勤務した場合、超過時間分に対し1.5倍の残業手当を支払う事が雇用法で義務付けられています。ただし、全ての従業員が対象となるわけではなくNon-Exempt Employee と呼ばれる一般職に就く従業員が対象となっています。

連邦法に加え各州もそれぞれ独自の雇用法を制定しているため、今回の改訂内容を順守すると共に州法に違反しないよう細心の注意を払う必要があります。残業時間の概念がその良い例と言えるでしょう。カリフォルニア州では一般的な基準である週40時間の目安の他に、1日の勤務時間を8時間と規定しているため1週間の合計勤務時間が40時間以下であっても、1週間の何れかの日に8時間以上勤務した場合、超過分を残業時間とみなします。テキサス州は連邦法を採用しているため、1日単位での概念が無く週合計40時間を超えた場合のみ、超過分を残業時間とみなしています。

 
ExemptとNon-Exemptの区別

通常殆どの従業員は雇用上Exempt またはNon-Exempt の何れかに分類され、それにより最低賃金や残業手当の取り扱いがそれぞれ異なっています。区分は給与査定基準および職務レベルで判断され、主に管理職または専門職に就く従業員をExempt Employee、一般職に就く従業員をNon-Exempt Employee とに分類されます。前述の通り雇用主は、Exempt Employeeに対し残業手当を支払わなくてもよいと規定されていますが、最低年間給与額 $23,660 を保障する事が義務付けられています。

 
改正内容

今回の改正は、残業手当対象外のExempt Employeeに保障されている最低年間給与額 $23,660 を現行の約2倍以上の$47,476 に引き上げる事により、中間層所得の向上を図るのが狙いでした。また高報酬従業員 (Highly Compensated Employee) の最低年間給与額も $100,000 から$134,004 引き上げられ、さらに最低給与額の見直しを2020年以降3年毎に行う事でインフレ調整も義務付けました。

 
差し止め命令と今後の動き

本来であれば今月の1日から同改訂内容が施行される予定でしたが、テキサス州を含む21州と50の企業団体による集団訴訟の結果、去る11月22日にテキサス連邦地方裁判所により施行の一時差し止めが決定されました。また施行の差し止めは全州に適用される事となったため、訴訟に加わらなかったその他の州でも一時的に施行を見合わす事となりました。

今後は改訂内容を審議し直し、最終判断を下す事になっているようですが、専門家の間では来年の1月20日にトランプ氏が第45代大統領に就任し保守派の政権が誕生する事で同改訂法は抹殺されると予想されているようです。何れにせよ連邦地方裁判所の最終判断は、現在の給与形態に大きな影響を及ぼしますので、その動向にしばらく目を離せません。

 

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