固定資産税減税法案(その②)

先月号では固定資産税減税法案の背景と法案可決の原動力と機運について話をしました。今月は法案成立に至るまでの過程について話をしたいと思います。

州議会の取り組み

高騰し続ける固定資産税がテキサス州民の負担になっている事を良く理解していた州政府は、今議会の主要政策として挙げた固定資産税減税法案を議会会期中(2023年1月10日から5月29日迄)での成立に取り組みました。上下両議会共に目標を「州民の税負担軽減」として掲げ上げていましたが、互いの軽減政策が異なったため激しい議論を繰り広げました。両議会の意見は真っ向から衝突し、結果的に今通常議会の会期中での法案成立には至りませんでした。最終的に第二次特別議会(会期2023年6月27日から7月13日迄)で互いに譲歩した妥協法案が両議会で可決されましたが、成立した法案を紹介する前に先ず譲歩前の各議会の法案を紹介したいと思います。

各議会の法案

何れの法案がより減税効果を与えるか。それは納税者の立場や状況によってそれぞれ異なります。両議会は、納税者に対して公平性を保つことを意識し問題解決に取り組みました。

下院議会の減税法案

下院議会は、固定資産税区分(郡、市、特別区、学区)の中で一番負担が大きい学区税率 (School District Tax Rate) を 0.162% 軽減する法案を提出しました。税率を一律軽減する事で所有物件の種類(商用物件、居住用物件、賃貸物件)に関係なく全ての納税者が平等に減税政策の恩恵を受ける事が出来ると主張しました。

上院議会の減税法案

上院議会は、税率の軽減とホームステッド控除額の増額を二本柱とする減税法案を提出し、学区税率を 0.10% 軽減、ホームステッド控除額(課税対象となる住宅評価額を減額できる優遇措置)を現状の 4万ドルから 10万ドルへ増額する内容を盛り込みました。上院議会は、この法案によって近年の住宅価格高騰に苦しんでいる住宅所有者の税負担をより効果的に軽減できる考えました。

その他の納税者(商用物件所有者、賃貸物件所有者)に対する減税政策としてフランチャイズ税の売上免除規定を現行の123万ドルを247万ドルに引き上げ事により約 6万7千社の中小企業が免税措置を受けられると主張しました。更に住民の投票なしで変更できる学区税額の増額限度の制限、教員給与の臨時加給金なども法案の一部として提出しました。

法案の比較

各議会の法案を比較した興味深い分析結果がありますので、州都が位置するオースティン学区を例に挙げ紹介をしたいと思います。(ABCテレビ傘下のKVUEテレビ局調べ)

トラビス郡査定事務局 (Travis Central Appraisal District Office) によると2023年度の住宅平均査定価格は $464,281 (4万ドルのホームステッド控除前)で、100ドル当たりの税率 0.9966 のため、自宅として居住物件を所有している方の固定資産額は $4,228.38 になる計算です。[ ( $464,281 – $40,000) ÷100 x 0.9966) ] = $4,228.38

同じ条件を下院議会の法案に照らし合せると、ホームステッド控除は据え置きの4万ドルですが、税率が 0.162% 軽減された 0.8346 (0.9966 – 0.162) となるため、自宅として居住物件を所有している方の固定資産額は $3,541.05 [ ( $464,281 – $40,000) ÷100 x 0.8346) ] となり、$687.33 ($4,228.38 – $3,541.05) の節税効果を得られます。上院議会法案の場合、軽減される税率は 0.10% に抑えられますが、ホームステッド控除額が 10万ドルに増額されるため、固定資産額は $3,266.14 [ ( $464,281 – $100,000) ÷100 x 0.8966) ] となり、節税効果は $962.24 ($4,228.38 – $3,266.14) となる計算になります。

前述の計算結果を単純に比較した場合、あたかも上院議会の法案が節税効果が大きいように映りますが、ホームステッド控除を受ける事が出来ない商用物件また賃貸物件の所有者の場合、下院議会法案の方が有利になる結果となります。(下院議会法案の節税効果 $752.14 に対して上院議会法案の節税効果は $464.28 に制限される)

  現行 下院法案 上院法案
  評価額 (A)  $464,281  $464,281  $464,281
  控除額 (B)  $40,000  $40,000  $100,000
  課税対象評価額  C = ( A – B )  $424,281  $424,281  $364,281
  税率 (D)  0.009966  0.008346  0.008966
  固定資産税額 ( C x D )  $4,228.38  $3,541.05  $3,266.14
  節税効果(自宅の場合)  $687.33  $962.24
  節税効果(賃貸の場合)  $752.14  $464.28

アボット知事の対応

下院議会は税率を低く抑える事で納税者全員に対して平等に減税効果を与える事が出来ると主張しました。対する上院議会は昨今の急激な住宅価格高騰を問題視し、自宅として居住用物件を所有している納税者の救済を意識した法案を作成しました。両法案共に全ての所有物件(商用物件、居住用物件、賃貸物件)に対して減税効果を与える事が出来ると主張しましたが、互いの法案に平等性に欠ける側面があったため協議は決裂し、そのまま通常議会は閉会しました。

今議会での法成立を目指したアボット知事がこの結果に対して不満を表明し、第一次特別議会(会期2023年5月29日から6月27日迄)を開催し、今年度中(2023年8月期決算)での法案成立を両議会に要請しました。最終的に第二次特別議会(会期2023年6月27日から7月13日迄)で減税法案が成立しましたので、成立した内容については次号で紹介したいと思います。

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