固定資産税減税法案(その③)

先月号では固定資産税減税法案が成立に至るまでの過程を話しました。今月は本題である法案内容について詳しく検証したいと思います。

可決された法案

今減税法案は2つの法案(上院法案第2第3)と下院共同決議案第2から構成されており、累計財政黒字額340億ドルの内、約180億ドルを固定資産税減税政策の予算として充当した政策となります。

【固定資産税減税政策】

  • 120億ドル(予算180億ドルの約70%)を学区税率の軽減に補填
  • ホームステッド控除額を4万ドルから10万ドルへと増額
  • 500万ドル以下の商用物件および賃貸物件の評価額上昇率を上限20%に制限
  • フランチャイズ税売上免除規定を現行の123万ドルから247万ドルへ引き上

州政府が120億ドルの学区予算を補填する事で学区側に学区税率の軽減を促し、最終的に課税対象者の税負担を軽減できると考られ、減税効果は一人当たり年間約 1,300 ドルと試算されています。ホームステッド控除を受ける事が出来ない商用物件また賃貸物件所有者に対する救済策として、課税対象となる不動産の評価額上昇率の上限を20%とする税制が3年限定で試験的に導入されました。更にフランチャイズ税の売上免除規定を大幅に引き上げる事で約6万7千社の中小企業事業主が税制改定の恩恵を受ける事が出来ると試算されています。

今後の流れ

先に述べた固定資産税減税法案はテキサス州上下議会を通過後、8月9日にアボット州知事によって署名されました。ただし、同法案が実際に法律として効力を持つためには州憲法を改定する必要があるため、来る11月7日の州民投票で是非が問われる予定となっています。州民投票には上院議会が2つの法案(固定資産税減税法案、フランチャイズ税減税法案)を提出し、下院議会が州憲法改定を盛り込んだ下院共同決議案を提出する形で進められる予定で、過半数以上 (Simple Majority) の票を得る事で成立する運びとなります。同法案が成立した場合、2023年度の固定資産税に遡って有効となるので、納税者は固定資産税減税の恩恵を直ぐに受ける事ができます。

取り残された課題

根本的な教育予算支援の欠如

今回の固定資産税減税は州政府による一時的な学区予算の補填政策となるため、州政府が公共教育へ直接支援(予算の負担)を行わない限り、長期的視野において学区予算の税収源確保の解決には至っていません。また同政策は学区税率軽減に対する補填を目的とするため、新たな追加予算とはなりません。

永続的に納税者の固定資産税負担を軽減するためには、一時的な予算補填政策ではなく州政府が直接公共教育費用の予算を拠出する仕組みが必要であると考えられています。その為、一部の議員からは州政府の財政黒字が無くなれば、また以前に逆戻りするだけと危惧する声も挙げられています。

賃貸者への救済欠如

テキサス州への人口流入と共に家賃も年々高騰しており、賃貸者への経済的負担も増加基調にあります。今政策は固定資産税を納めている納税者に対する減税効果が期待されていますが、間接的に固定資産税を負担(月々の家賃として)している賃貸者への救済とはなりません。税負担軽減の恩恵を受けた家主が賃貸者に対してその恩恵の一部を還元するとは考えられにくいため、賃貸者に対する家賃補助政策 (Texas Rent Rebates) も提案されていましたが、最終的合意に至った妥協法案からは除外されました。

評価額上昇率の抑制欠如

今法案で商用物件および賃貸物件の評価額上昇率を上限20%に制限する政策が盛り込まれましたが、下院議会が提案した居住物件の評価額上昇率を上限5%とする案も妥協法案からは除外されました。現在テキサス州では、年間の査定額上昇率の上限が10%(テキサス州税法第 23.23(a) 項)と定められているため、理論的には毎年10%相当の税負担上昇が考えられます。

教職員への救済欠如

上院議会が提出した法案に含まれていた教職員の臨時ボーナス予算案(約3.2億ドル)は、最終的に可決された法案から除外されました。仮に予算案が可決された法案の一部として盛り込まれていた場合、生徒数2万人以上の学区に勤務している教員は、一人当たり2千ドルの臨時ボーナスを受け取る試算が出されていました。(生徒数2万人以下の学区勤務の教員は一人当たり6千ドル)

パトリック州副知事によれば教職員の賃上げ政策として約50億ドルの予算が既に確保されており、同件協議のためアボット州知事が10月に第三次特別議会を収集するであろうと言及していますので、この課題に関して何らかの対策が講じられる事を期待したいと考えます。

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