合法な不法占拠

今月の表題は一見矛盾している感がありますが、持ち家に関連した信じ難い事件が多発しているようですので、注意喚起として敢えてこの表題で話を進めたいと思います。なお、今月の内容は不動産と法律に密接に関連する事項となりますので、詳細については専門家にご確認ください。

背景

ある日突然、見知らぬ人に家を奪われ、自宅を取り戻すことが出来ない状況に陥る。とても信じ難い報道内容で最初は冗談だと思いましたが、実際に起こっている事件で、背景に Adverse Possession(時効取得法)と呼ばれる時代遅れの法律が関係しています。

最近起こった事件では旧来の法律を悪用した占拠者が引き起こし、犠牲者はダラス近郊のメスキート市の自宅オーナー(以下、Aさん)でした。Aさんによると、自宅修理のために雇った業者が、留守中にそのまま居座り、家を明け渡すことを拒んた事により起こったということです。

一般的な見解では不審者が自宅を無断で占拠したと受け取られますが、時効取得法によって住宅を無断で占拠した不審者が法的に保護されており、不審者を強制退去するためにはAさんが法的手続きを踏まえて立ち退きを行う必要がありました。Aさんは、警察官を呼んだようですが、刑事事件 (Criminal Case) として取り扱われず、現行の法律上、警察は直接介入できません。時効取得法が合法であるため、仮にAさんが法的手続きを踏まずに占拠者を無理やり追い出した場合、違法行為として逆にAさんが逮捕されるという理解しがたい措置が取られるようです。

今回のケースは、民事事件 (Civil Case) として取り扱われるため、Aさんは弁護士を雇い、裁判所で手続きを経たうえで最終的に強制退去できたようですが、弁護費用が掛かった上に、解決するまでに7ヶ月も時間を費やしました。す。同様な事件がダラス・フォートワース圏内で400件近く報告されており、テキサス州内の他地域(サンアントニオ、ヒューストンなど)でも多発しています。現在、不法占拠の事例を管理する専用の記録システムが無いため、実際にどれくらいこのような時効取得法による違法行為の発生件数が存在するのかは把握できていないようです。

時効取得法とは

他人の家に無断で定住する人を Squatter (無断居住者)と呼び、時効取得法で権利が保護されています。テキサス州も同法を導入しており、州民法第 16.024 -16.026 に条例が規定されています。

法律上、Squatter は不法侵入者 (Trespasser) や強盗 (Burglar) とは異なるため、犯罪者として取り扱われず、また無断居住者と不法侵入者の法的区別も明確でないため、問題がより一層複雑になり、殆どのケースで裁判所の判断を仰ぐ必要があるようです。弁護士によると両者の大きな違いは、Trespasser は無断で家屋に侵入はするが居住しない、Squatter は無断侵入後に居住目的でその場に居座り続ける、との事です。また賃貸のリース契約終了後に無断で居座り続ける行為は Squatter とは見なされません。

【時効取得が認められる条件】

時効取得法の下、次の第1および第2条件を満たす事で法的に該当の土地・物件の正式所有者になる事が認められています。また該当の土地・物件を「悪意」のもと無理やり強奪するのではなく、あくまでも放置または放棄されたと思われる土地・物件を純粋に開拓または管理する目的で取得する必要があります。

第1条件:(3つの何れか)

  • 連続して3年間居住している事、または
  • 最低5年間、当事者名義で譲渡証書を保有し、固定資産税を納付し、且つ土地を耕作している事、または
  • 最低10年間居住し、且つ土地を開拓している事(面積160エーカー以下に限る)

第2条件:(5つ全て)

  • 該当の物件に対して賃貸またはリース契約を結んでいない事
  • 実際にその土地で一定期間居住している事
  • 公然と占拠している事
  • 独占所有し、他者と共有してない事
  • 3年から10年間、該当の土地・物件を所有している事

時効取得法の起源

現代社会において同法はやや乱暴な法律として受け止められると思われますが、制定理由を調べるにあたり、導入当時はある程度理に適っていると納得できました。同法の起源は古く南北戦争時代まで遡り、本来は荒廃地の開拓、管理を目的として導入されたようです。裕福な人が土地を購入しても、その土地を利用しない場合、後から来た人 (Squatter) が実際にその土地に住み、管理する事でへき地が開拓されるため、無法地帯が減少すると考えられたとの事です。

また現代社会において人口が少ない地域は、過疎化対策、治安維持や管理などの恩恵を受ける傾向があるので、時効取得法は必ずしも「悪法」では無いと捉える方もいると考えられます。

今後の動向

然しながら、時効取得法を悪用した不法占拠が公然と行われ、正当な所有者が不利になる状況が発生しているため、フロリダ州は Squatter の権利を無効にする法律を成立させ、ジョージア州でも同様の法案を可決し、州知事の署名待ちとなっています。テキサス州でも時効取得法を問題視している州議員が、この問題を解決すべく2025年度の州議会で法改定を行う動きで調整を行っているようです。

厄介な事に時効取得法を悪用している人物がSNSなどで情報を拡散し、不法占拠を指南しており、更に空き家探しの手段も巧妙で、一般公開されている抵当物件 (Foreclosure)、オーナーが亡くなり一時的に空き家になっている遺産相続物件 (Probate)、または長期間売りに出されている住宅販売情報(不動産業者のウエブサイト)を検索して占拠物件を選定しているケースが多々発生しています。

Squatter の権利を保護している法律が改定されるまで時間がかかりそうですので、テナントが決まっていない空き物件を所有している方、または一時帰国で長期間自宅を不在にされる方は、知り合いまたはご近所に相談して、定期的に家の状況を確認してもらう事を強くお勧めします。

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