大統領候補の税政策

アメリカでは大統領選挙が行われる度に各候補者が税制改正を目玉政策の一つとして掲げます。共和党からはトランプ前大統領が立候補し、民主党はハリス現副大統領を候補者として推薦しています。今月は、私達納税者の生活を大きく左右する両候補者の税政策を要点を踏まえ簡単に紹介したいと思います。

法人税

トランプ候補は、法人税率を現行の21%から20%に引き下げる政策を打ち出し、更なる経済効果を経営者や富裕層の有権者にアピールしています。覚えている方もいらっしゃると思われますが、現行の税率もトランプ政権が2017年に施行した大型税制改正 (Tax Cuts and Jobs Act of 2017 以下「TCJA法」) によって軽減されました。2017年の改正以前は、累進課税(課税所得の金額によって税率が変動するシステム)と呼ばれる7段階の課税方法が採用されており、最高35%の税率が適用されていました。

ハリス候補は、逆に追加課税を軸とした政策を発表しており、法人税率を現行の21%から28%、米国外で収益を上げている多国籍企業を標的にしたGILTI法の税率を現行の10.5%から21%、投資所得に対する増税、石油会社など化石燃料業界への租税強化が主な事項となります。増税によって得られた税収は、個人所得税の控除に引き当てる事を明言しており、還元の対象となる中間層の有権者に対してアピールをしています。

個人所得税

トランプ候補は、自身が政権時代に導入したTCJA法の恒久化(殆どの税制が2025年に失効予定)、児童税額控除 (Child Tax Credit) を現行の $2,000 から $5,000 へ増額、チップ収入に対する課税免除を政策として挙げています。また関税から得た税収を個人所得税の軽減策に補填する事も検討しているようです。

ハリス候補は、現バイデン政権の政策を継続しつつ、追加で児童税額控除 (Child Tax Credit) を現行の一律 $2,000 から年齢別増額方式(1歳未満は $6,000、1歳以上5歳未満は $3,600、5歳以上は $3,000)の導入、勤労所得控除 (Earned Income Tax Credit) の増額、住宅控除の充実を挙げ、チップ収入に対する租税は、トランプ候補と同様に課税免除を提言しています。所得が $400,000 未満の独身納税者(夫婦合算申告は $450,000 未満)に限りTCJA法の継続を訴えていますが、その金額を上回る納税者に対する最高税率を現行の 37% から 39.6% へ引き上げる事を提言しています。また投資所得に対する税率も現行の 3.8% から 5% へ引き上げる提案もしています。

給与税

トランプ候補は、年金生活を送っている有権者に対して年金所得に対する給与税の撤廃を提言しています。ハリス候補は現時点で給与税に対する政策を発表していませんが、後日何らかの提案を行う可能性を示唆しています。

関税

トランプ候補は、全ての輸入品に対して 10% から 20% の関税をかけ、中国からの輸入品全てに対して 60% の高税率かけると提言しています。ハリス候補は、現時点で特に関税に関する政策を発表しておらず、現状を維持すると憶測されています。

相続税

トランプ候補は、2025年に失効するTCJA法の恒久化を提言しています。仮にTCJA法が失効した場合、相続税の控除額が半額に減額されます。ハリス候補は、特に相続税に関して政策を発表していませんが、バイデン政権が相続税の租税強化を図っているため、予定どおりTCJA法を失効させ、更なる課税を行うと予想されています。

あとがき

両候補者は対極の公約を展開しており、お互いに異なる支持層にアピールしている構図が浮かび上がります。トランプ候補は国内に向けた政策では減税案を打ち出し、外交政策では自国第一主義に基づいた保守的な立場を取っています。対するハリス候補は、富裕層や企業に対する増税政策を掲げ、中間層への支援強化を訴えています。

法案が成立するためには上下両院の承認を得る必要がありますので、お互いの公約がそのまま成立する事は想定されませんが、何れの候補者が当選した場合、方向性としては「減税」または「増税」となるでしょう。またTCJA法で改正された個人所得税制の多くが2025年に失効する予定となっていますので、同法に対する両候補者の対応にも注目が集まっています。

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