条例案と税金

今月号が発行される頃には選挙の投開票も終わり、第47代大統領も選出されている事だと思われます。大統領選の投票と共に各地方自治体では地域住民による条例案の是非を問う住民投票も同時に行われます。今月は、納税者に大きな影響を及ぼす事項に焦点を当て、ダラス近郊自治体(特に学区)の条例案について紹介をしたいと思います。

公立校の財源

テキサス州公立校の財源は主に連邦政府基金、州政府基金、と各学区が徴収する固定資産税から成り立っています。特に財源としての比重が大きい固定資産税は、Maintenance and Operations(以下「M&O基金」と呼ぶ)とInterest and Sinking(以下「I&S基金」と呼ぶ)に区分され、それぞれ使用目的と税率が異なります。

M&O基金は、日々の学校運営資金として確保されており、教職員の給与、学校の管理維持費、光熱費や学生のサービス活動費などに充当されます。I&S基金は、学校の新設・改修費、通学用バス、セキュリティー費用などの高額支出の資金として確保されており、財源は公債(地方自治政府が発行する債務)から成り立っています。I&S税は、それら公債と利息の返済目的に徴収されている税金となります。ダラス学区の2024年度の固定資産税率は0.997235%で、M&Oの税率 0.755200% と I&S税率 0.242035% の2つの税率から構成されています。各郡の学区税率区分は、次のリンク先から確認できます。

【学区税率区分リンク】

学区の条例案

各学区は学校運営に必要な財源確保のため、条例案の是非を問う住民投票を実施する予定です。

フリスコ学区(公債発行と税率上昇による両基金の確保)

フリスコ学区は、M&O基金とI&S基金増資のためにM&O税率上昇と公債発行の条例案を住民投票に盛り込んでいます。M&O基金増資計画に対しては税率を 0.0294% 引上げ、I&S基金増資計画に対しては 11億ドルの公債発行する事で対処します。都市発展が著しいフリスコ市(およびフリスコ学区)としては、公費確保に不可欠な条例案だと思われますが、今後数年間は地域住民に対する税負担は上昇すると予想されます。

アレン学区(公債発行による I&S基金の確保)

今年の住民投票に4.47憶ドルの公債発行の是非を問う条例案が盛り込まれており、投票によって承認された場合、学校のセキュリティー機能向上、学校補修、運動場の整備、IT機器(パソコンなど)の購入費用に充当されます。学区関係者によると、公債発行によってI&S税率の引き上げは行わないそうですが、今回の公債に対する利息返済額は考慮されていないため、後年税率の変更は必要となるでしょう。アレン学区の2024年度固定資産税率は 1.1258%で、振り分けは M&Oの 0.7358%、I&Sの 0.39% となります。

セリーナ学区(税率調整によるM&O基金の確保)

セリーナ学区は、教職員給与増額の財源確保として税率調整の条例案を住民投票に盛り込んでいます。条例案は、現行の合計税率を維持しつつ、M&O税率とI&S税率の変更を行う案となっています。セリーナ学区の現行の合計税率は 1.2358%で、その内M&Oの税率が 0.7358%、I&Sの税率が 0.50% となります。今回の条例案は、I&Sの税率を 0.0511% (調整後税率 0.4489%)下げる代わりに、M&Oの税率を 0.0511% (調整後税率 0.7869%)上げる事により教職員の給与に充当できるM&O基金の財源確保が狙いとなっています。両者(M&OとI&S)の税率を調整する事で全体の税率は変わりませんが、結果的にI&S基金の減資になりますので、後年I&S基金の補填が必要になると予想されます。

グレープバイン・コリービル学区(税率調整によるM&O基金の確保)

グレープバイン・コリービル学区は、教職員給与増額の財源確保として税率調整の条例案を住民投票に盛り込んでいます。条例案は、現行のM&O税率を 0.7290% から 0.7369% へ引き上げ(0.0079% 増率)、I&S税率を 0.1957% から 0.1864% へ引き下げる(0.0093% 減率)内容となっており、結果的に前年度比 0.0014% の減率となります。固定資産税の合計税率は、0.9233% となり、過去25年間で一番低い税率となります。同条例案が住民投票によって承認された場合、M&O基金が約 600万ドル 増加すると試算されています。

コペル学区(税率上昇によるM&O基金の確保)

コペル学区は、教職員給与増額の財源確保として税率上昇の条例案を住民投票に盛り込んでいます。条例案はM&O税率を 0.00317% 引き上げる案で、住民投票によって承認された場合、M&O税率が現行の 0.7552% から 0.7869% への引き上げとなり、240万ドルの増収になると算出されています。(I&Sとの合計税率は、1.0026% から 1.0343% へと増加)同条例案は、高齢者に対する軽減措置も含まれており、65歳以上の納税者の税率は住民投票の結果に関係なく据え置きになります。

その他の学区

その他近郊の学区(ダラス学区、プレーノ学区、リチャードソン学区、キャロルトン学区、アービング学区)は、前回の中間選挙(2022年11月8日実施)で住民投票が行われたため、今回の選挙(2024年11月5日)では投票は行われません。

あとがき

近年人口流入が著しテキサス州では各地で都市開発が進み、雇用の創出や賃金の上昇など経済的な恩恵を受けています。その反面、住宅不足による価格高騰や交通渋滞の悪化などの懸念事項も指摘されます。従来からテキサス州に住んでいる住民(保守派)の中には政治的な影響を懸念している人もおり、リベラル派が多いカリフォルニア州から多くの人がテキサス州に移住する事により、選挙結果に影響を及ぼすのではないかと心配する声も上がっているようです。

時代の変化と共に人々の価値観は変わり、それに応じて法律も変更されます。今回の選挙結果に対してさまざまな意見が出てくると思われますが、発展し続けるテキサス州の変化を見守って行きたいと思います。

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