トランプ大統領が推進する税制支出法案 (One Big Beautiful Bill Act) が上院・下院両議会の承認を得ました。(上院議会賛成51票に対し反対50票、下院議会賛成218票に対し反対214票)トランプ大統領は独立記念日にあたる7月4日に署名を示唆しており、これにより同法案の成立がほぼ確実となりました。今月は私達納税者に大きな影響を及ぼす税制支出法案について話をしたいと思います。
税制支出法案 (One Big Beautiful Bill Act)
税制支出法案は、第一次トランプ政権が2017年に施行した減税雇用法 (Tax Cuts and Jobs Act of 2017) の恒久化を含む新な減税措置と、支出の削減が主な内容となります。
減税政策
2017年に施行された減税雇用法 (Tax Cuts and Jobs Act of 2017) の殆どが2025年度末で失効予定となっていましたが、今回の税制支出法案によって個人所得税減税措置(主に標準控除額の拡大、税率引下げ、児童税額控除の増額、代替ミニマム税の緩和、パススルー控除など)が恒久化される見通しとなりました。更に現在課税の対象となっているチップ収入、残業手当、また社会保障給付金(年金)の非課税化など新たな減税措置が追加されました。
児童税額控除も現行の一人当たり $2,000 から $2,200 へと増額され、65歳以上の高齢者は、$6,000 の所得控除が追加されます。また州・地方税(State and Local Tax)控除の上限も現行の $10,000 から $40,000 へと引き上げられます。条件を満たした自動車(主に米国内で組み立てられた自動車)のローン利息控除も新に導入し、減税措置と共に米国製造業の活性化を図る措置も講じています。
2026年に700万ドルへ減額予定だった相続税の免除上限額が恒久化され、一人当たり 1,500万ドル(夫婦の場合、3,000万ドル)まで相続税が免除となります。
法人所得税率は2017年に導入された21%の軽減税率の恒久化、即時減価償却の年度別上限の撤廃、研究開発費 (R&D費用) の即時償却の復活(ただし、国外のR&D費用は現行の15年間償却のまま変更無し)、支払利息の損金制限の緩和、適格事業所得控除 (Section 199A) の控除率の引き上げが盛り込まれています。
支出削減政策
支出の見直しで特に議論されたのが社会保障制度で、医療費補助制度 (Medicaid) と食糧支援制度 (Supplemental Nutrition Assistance Program) の支出が大幅に削減されました。バイデン政権下で導入された学生ローン免除政策の撤廃、インフレ削減法 (Inflation Reduction Act of 2022) で導入された税制優遇措置(電気自動車の補助金、再生可能エネルギー支援など)の見直しや撤廃によりクリーンエネルギー政策を後退させます。
懸念事項
同法案の施行により連邦政府の税収は今後10年間で約4.5挑ドル減少すると予測され、更なる財政悪化が懸念されています。また高所得層や企業などが減税政策による恩恵を最も受けるとされ、更なる所得格差の拡大も危惧されています。低・中所得層は頼りにしていた支援政策の縮小などで生活に深刻な影響を及ぼす可能性があり、一部の議員から非難の声が上がっています。
あとがき
第二次トランプ政権によって導入予定の税制支出法案 (One Big Beautiful Bill Act) は、減税雇用法 (Tax Cuts and Jobs Act of 2017) を基盤とした大型減税政策で、主要な税制を恒久化すると共に新たな減税措置を導入する事で米国の経済成長を促進する事を目的としています。然しながら、税収減を補填する政策が盛り込まれていないため、長期的視野に置いて持続可能な税政策とは言えない側面を持っています。