納税者支援法

去る12月1日に私達納税者にとって朗報となる納税者支援法案(正式名称 Math and Taxpayer Help Act)がトランプ大統領の署名によって法律として成立しました。今後の申告手続きにおいて有益な情報となりますので、今月は同法について話をしたいと思います。

同法成立の背景

税金徴収を主な業務とするIRSには様々な権限が付与されています。その権限の一つとして提出された申告書に対して計算間違いを訂正する計算訂正権限 (Math Error Authority) があります。

従来の制度では、IRSが申告内容に誤りがあると判断した場合、通常の監査手続きを経ずに税額を自動的に調整し納税者に対して誤りを指摘した訂正通知をすることが認められていました。然しながら、それら通知は訂正内容が不明瞭で説明が不十分な内容となっていました。また通知を受け取った納税者は通常60日以内に回答を求められますが、回答を怠った場合、訂正内容が確定する仕組みとなっています。

納税者は訂正通知に対して異議申し立てをする権利がありますが、多くの納税者が通知内容を理解できず、結果的に権利を行使する事ができないケースが多々発生していました。この状況を問題視した団体(納税者擁護局、全米会計士協会など)が、長年制度不備の改善を求め今回の法律改正に至りました。立法の流れとして先ず2025年2月5日に下院が法案 (H.R. 998) を提出し、3月31日に下院を通過。その後、10月20日に上院で全会一致で可決され、12月1日にトランプ大統領の署名によって法律として成立しました。(同法の効力発動は、2026年12月1日より)

納税者支援法の概要

前述の背景のもと法制化された納税者支援法は、手続きの透明性と公正性をより高める事を目的に税法第6213(b)(1)を修正し、IRSに対してより詳細な情報提供を義務付ける内容となっており、次が主な事項となります。

分かりやすい言葉で説明をする義務

従来は定型的な文言のみで、抽象的な記述で表現されていましたが、法改正後は誤りと判断した具体的な理由を説明する事が義務化されました。

誤りの行番号と箇所の特定義務

納税者がどこを修正すべきか分からないという問題を解消するため、申告書上の行番号や項目名を明示することが義務化されました。これにより、誤りの性質、種類、該当する税法条文番号など詳細を把握する事が可能となります。

訂正前後の比較詳細計算書の添付義務

訂正前と訂正後の変更を数値で比較確認できる計算書の添付が義務化されました。これにより、その差額と調整理由がより明確に表示される事となります。

情報源の明示義務

調整箇所が一目で分かるよう、訂正の根拠となる情報源(様式 W-2、1099、その他税務書類)の明示が義務化されました。

異議申立て期限の明確な表示義務

従来は申立ての期限が曖昧に記載されていたり、誤解を生む表現が使われることがあり、納税者が申立ての機会を失う事態が起こっていましたが、法改正後は、申立て期限を明確に表示する事が義務化されました。また期日加算開始日が郵送日基準か発行日基準かを明確にする事も併せて義務化されました。

異議申立ての手段拡大義務

同法は、納税者が不服申立てを行う手段を複数用意する事を義務付けており、効力発動後は通常の書面に加え、電話、対面申請、または電子手続きによる異議申立てを受け付ける事が認められます。これにより、申立て手段が実質的に簡易化され、納税者にとって手続きの負担軽減に繋がると期待されています。

通知手段の運用試験義務

通知の未配達や誤配達を減らす目的でIRSに対して一定期間、従来の通達手段の他に郵便書留や電子通達を併用し、その試験結果を議会に報告する事が義務化されました。これにより、納税者が期日内に対応できる状況が改善できる事が期待されます。

あとがき

今年の1月20日に第二次トランプ政権の発足以来いろいろな事が起こりました。関税の引き上げに始まり、税制支出法案 (One Big Beautiful Bill Act)の法制化、政府機関の長期閉鎖など、特に税金を取り巻く環境は激動と言えるでしょう。

今回の納税者支援法は、前述のとおり納税者の権利保護と同時にIRS業務運営における環境整備の制度改革となるため、実務の質向上が期待されます。来年は先に法制化された税制支出法 (OBBA) の大部分が効力を持つ年となります。税法変更によって私達の生活がどのような影響を受けるのか分かりませんが、その都度柔軟に対応できればと考えています。いろは読者の皆様もどうぞ良いお年をお迎えください。

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