来年度の予算編成のため、第89回テキサス州議会が140日間の日程で1月14日から6月2日まで開催されています。今議会は主に教育(学校選択制度)、刑事司法(保釈制度)と固定資産税を中心とした予算組みが協議されています。今月は、金銭面で私達の生活に影響を及ぼす固定資産税の改定法案に焦点を置いて議会の動きについて紹介をしたいと思います。
改定法案の背景
近年飛躍的に経済規模が拡大し続けているテキサス州では、人口流入と共に不動産価格も年々高騰しており、それに伴い不動産にかかる固定資産税額も年々上がってきています。高騰し続ける固定資産税がテキサス州民の負担になっている事を良く理解している州政府は、ここ数年間財政黒字を充当する形で州民の税負担を軽減してきました。
固定資産税の算出方法
所得税を設けていないテキサス州では、売上税と固定資産税(動産税を含む)が州および地方自治体の主な財源となります。固定資産税は、土地や建物などの不動産に課税をする税金で各管轄の郡 (County) によって管理され主に公立学校、公共施設、公共交通や治安管理などの公共サービスの重要な財源として位置付けられています。固定資産税額は、不動産査定額から控除額を差し引いたネット査定額に税率を掛けて算出されます。つまり、税額を左右する大きな要素は、査定額、控除額と税率の三つとなります。税率は各地方自治体が決定しておりここ数年間横這いとなっていますが、査定額が市場価格 (Market Approach) で決定されるため、近年の不動産ブームに押し上げられる形で上昇し、結果的に固定資産税が上がる状況が続いています。
固定資産税額 = ( 査定額 – 控除額 ) ✕ 税率
固定資産税の控除額改定法案
救済策として州政府は、控除額を調整する事で納税者の税負担を軽減してきました。ホームステッドと呼ばれる控除は、過去数回の法改定により2021年度の2万5千ドル、2022年度の4万ドルから現行の10万ドルに大きく増額されました。今議会ではホームステッド控除額を更に増額する案が協議され、上院議会で現行の10万ドルから14万ドルへと増額する法案が全会一致で承認されました。65歳以上の高齢者は、追加で1万ドルの控除が得られるため、控除額は最高15万ドルになります。仮に同法案が法制化された場合、減税効果は一人当たり年間約363ドルと試算されています。また同法案は、控除額の増額によって地方自治体の税収が減少した場合、減収分の補填を保証する内容も盛り込まれています。
取り残された課題
- 賃貸者への救済欠如
テキサス州への人口流入と共に賃貸価格も年々高騰しており、賃貸者への経済的負担も増加基調にあります。今法案は固定資産税を納めている納税者に対する減税効果が期待されていますが、間接的に固定資産税を負担(月々の家賃として)している賃貸者への救済とはなりません。
- 査定額上昇の抑制欠如
現在テキサス州では、課税対象となる固定資産の年間査定額上昇率の上限が10%(テキサス州税法第 23.23(a) 項)と定められています。その為、理論的には毎年最低10%相当の税負担上昇がが可能となります。また一部の議員からは、各地方自治体が税率を上げる事でホームステッド控除額の増額効果が薄れると危惧する声も挙げられています。
今後の流れ
先に述べた改定法案は今後下院議会で審議される予定となっています。下院議会も税負担軽減の救済を訴えているため、何らかの減税法案が提案される事が予想されます。現時点で下院議会の法案は提出されていませんが、互いの法案を協議後、最終的な法案として投票が行われます。また同法案が実際に法律として効力を持つためには州憲法を改定する必要があるため、州民投票で是非が問われる予定となっています。
冒頭で触れましたが、テキサス州は所得税を設けていないため、州および地方自治体の財源を主に売上税と固定資産税に依存する構造となっています。非営利税制調査団体 (Tax Foundation) によると、テキサス州の固定資産税額は全米でも高い方で、全50州の内12番目に高い州との調査結果が出ているようです。(2023年7月、非営利税制調査団体調べ)
投稿: 比嘉CPA