政府閉鎖

10月 1, 2025

私達が納める税金を財源とする国家予算。先日、次年度予算案が上院で否決され、連邦政府が閉鎖となりました。今月は、連邦政府の閉鎖と関連する事項について話をしたいと思います。

予算編成

米国連邦政府の会計年度は、毎年10月1日から翌年の9月30日までの12か月間となり、全ての支出は議会の歳出決議を通じて承認される必要があります。予算法案は、上下両院と大統領の承認を経て施行される仕組みになっています。会計年度が毎年10月1日に始まるため、本来は年度開始日までに予算が成立されるのが原則ですが、政治的理由により予算編成が間に合わない事もあります。その場合、議会は暫定予算を組み、政府機関に一時的な資金の供給を行う事ができます。

資金不足による閉鎖

一時的な資金供給を目的とした暫定予算が成立しない場合、政府を運営する資金が無いため、政府機関は一部または全面閉鎖を余儀なくされます。米国下院情報によると、資金不足による閉鎖は今回を含めこれまで21回ありましたが、実際に政府機関が閉鎖したのは11回に留まります。

会計年度 資金終了日 閉鎖期間 資金供給開始 運営 政権 閉鎖の主な理由
1977 1976年9月30日 10日間 1976年10月11日 継続 フォード政権 予算編成を巡る対立
1978 1977年9月30日 12日間 1977年10月13日 継続 カーター政権 中絶に関する連邦予算を巡る対立
1978 1977年10月31日   8日間 1977年11月9日 継続 カーター政権 中絶に関する連邦予算を巡る対立
1978 1977年11月30日   8日間 1977年12月9日 継続 カーター政権 中絶に関する連邦予算を巡る対立
1979 1978年9月30日 17日間 1978年10月18日 継続 カーター政権 公共事業、国防費を巡る対立
1980 1979年9月30日 11日間 1979年10月12日 継続 カーター政権 公共事業、国防費を巡る対立
1982 1981年11月20日   2日間 1981年11月23日 閉鎖 レーガン政権 予算削減・防衛費増額を巡る対立
1983 1982年9月30日   1日間 1982年10月2日 閉鎖 レーガン政権 予算削減・防衛費増額を巡る対立
1983 1982年12月17日   3日間 1982年12月21日 継続 レーガン政権 歳出削減と財政赤字対策を巡る対立
1984 1983年11月10日   3日間 1983年11月14日 継続 レーガン政権 教育、防衛、環境関連を巡る対立
1985 1984年9月30日   2日間 1984年10月3日 継続 レーガン政権 教育、軍事、難民援助を巡る対立
1985 1984年10月3日   1日間 1984年10月5日 閉鎖 レーガン政権 教育、軍事、難民援助を巡る対立
1987 1986年10月16日   1日間 1986年10月18日 閉鎖 レーガン政権 教育、軍事、難民援助を巡る対立
1988 1987年12月18日   1日間 1987年12月20日 継続 レーガン政権 国内歳出と税制を巡る対立
1991 1990年10月5日   3日間 1990年10月9日 閉鎖 ブッシュ政権 外交・教育資金を巡る対立
1996 1995年11月13日   5日間 1995年11月19日 閉鎖 クリントン政権 医療・福祉、減税を巡る対立
1996 1995年12月15日 21日間 1996年1月6日 閉鎖 クリントン政権 医療・福祉、減税を巡る対立
2014 2013年9月30日 16日間 2013年10月17日 閉鎖 オバマ政権 オバマケアを巡る対立
2018 2018年1月19日   2日間 2018年1月22日 閉鎖 トランプ政権 移民政策を巡る対立
2019 2018年12月21日 34日間 2019年1月25日 閉鎖 トランプ政権 国境の壁建設を巡る対立
2025 2025年9月30日  継続中             – 閉鎖 トランプ政権 医療保険補助金を巡る対立

通常、資金不足に陥ると各政府機関の運営は継続できませんが、過去に資金供給が停止したにもかかわらず後日予算成立を前提に業務を継続した年もありました。しかし1981年に当時の司法長官ベンジャミン・シヴィレッティが米国歳出超過禁止法 (Anti-Deficiency Act) をより厳格に解釈する見解を示したことにより、政府閉鎖の根拠を確立しました。その見解以降、資金不足による政府機関の一部または全面閉鎖が行われるようになりました。

司法長官の見解を受けて初めて政府機関が閉鎖されたのはレーガン政権時代の1981年11月20日で、閉鎖は2日間続きました。政府が閉鎖される殆どの理由は、政策の違いによる両政党の予算編成の隔たりが主な原因となります。各年代共に当時の政権が押し進めた目玉政策が主な要因となり、予算策定の障害となっており、第1次トランプ政権下に35日間続いた閉鎖が史上最長となります。

閉鎖による影響

今回の政府閉鎖により約80万から90万人の連邦職員が休職扱いとされ、各種業務に影響が出ると予想されています。特に緊急性が低いとされている公共サービス(国立公園、国立博物館、環境保護庁、移民局、IRSなど)は大きな影響を受けますが、国民の安全を守る必須業務(軍事、治安、司法、医療、航空管制など)閉鎖の対象外となり、通常どおり継続されます。

社会保障給付や公的医療保険は通常通り支払われますが、新規申請や審査は遅れると予想されます。フードスタンプなどの生活保護は影響を受けませんが、閉鎖が長期化すると資金が枯渇しプログラムが停止される可能性があります。

休職扱いの職員は無給となり、また必須業務機関で働く職員なども給与の未払いが起こる可能性があるため、連邦職員の消費減退が懸念されます。閉鎖対象機関の行政の遅延、処理能力の低下、業務滞留の悪影響も予想されます。また政府支出の停止によるGDP成長の鈍化など、経済的損失も避けられないでしょう。第1次トランプ政権下の政府閉鎖ではGDP成長率がマイナスに転じ、約110 億ドルの経済損失をもたらしたと試算されています。

あとがき

政府機関が閉鎖される事により、関連機関のサービス遅延また停止が想定されます。然しながら、政府関連書類の提出期限は延びませんので、予定納税や申告などは通常どおりに提出する必要があります。また政府(移民局、IRSなど)の対応、回答、還付処理などは遅れる事が必至となりますので、予め念頭に置いてください。