法人所得税と並び、会社にとって金銭的負担となるのが駐在員コストの補てんだと思われます。今月は、駐在員コストについて検証しつつ、州別の違いについて総括したいと思います。
駐在員コスト
一般的な駐在員の場合、日本と米国での給与格差を無くすため米国支給の手取り金額(ネット支給額)が保障されているケースが多く、その所得に対する税金も会社側が負担する雇用契約を結んでいいます。また給与以外の雇用条件(住宅手当、教育補助など)も福利厚生の一部として提供する雇用契約を取り交わす事もあり、それら福利厚生を所得の一部として認識する必要があります。
[ 駐在員給与の特性]
- 日米における税制格差を補てんするため、手取り額が保障される
- 給与以外の手当(住宅補助、教育補助)なども提供される
- 所得に対する税金(連邦・州税)を会社が補てん
グロスアップ
手取り支給額を保障するために、課税対象となる福利厚生額の特定、またそれら所得に相当する税額を含めた額面給与を計算する必要があり、その作業を「グロスアップ」と呼びます。つまりグロスアップとは、目標とする手取り支給額(ネット給与)をもとに総支給額(グロス給与)を計算(グロスアップ計算)する作業となります。
テキサス州
テキサス州では州レベルの個人所得税が無いため、所得に対する課税は連邦税のみとなります。そのため駐在員に対して給与の手取り保障契約を行っている会社にとって次の税務メリットが挙げられます。また現在、個人所得税を設けていない州はテキサス州の他にアラスカ、フロリダ、ネバダ、サウスダコタ、ワシントン、そしてワイオミングの計7州となります。
[ 税務メリット]
- 申告書作成費用の経費が削減できる
- 州税のグロスアップ計算をする必要が無いため時間を節約できる
- グロスアップ分の会社負担税額を軽減できる(ネット保障している場合)
- グロスアップ分の給与税軽減になる(社会保障協定を適用していない場合)
カリフォルニア州
カリフォルニア州は州レベルでも所得税を課税しているため、同じ所得に対し連邦と州の両方で課税される仕組みになっています。課税対象の福利厚生はもちろんの事、それら所得にかかる所得税も会社が補てんする場合、補てん分を所得として認識する必要があるため、それと比例して連邦税および州税が増える結果となります。
このように州が違うということだけで、駐在員一人当たりの会社負担額が大きく異なるため、州所得税を課税している州とそうでない州とを比べ、総負担額をシミュレーションする事も重要になるでしょう。また、州税補てん分に対して連邦税額も増えることから、州個人所得税率そのものは低く見えても、実質的にかかるコストは州税だけではないということを同時に理解する必要もあります。
著者あとがき
活動拠点に関係なく申告する必要のある連邦税は、完全に回避できる方策は少なく、節税対策と言えば、主に納税の先送りが焦点となります。これと違い州税は、納税を完全に回避する事が可能なため、対応によっては多大な節税効果を得る事も可能となります。
米国では各州が会社法をはじめとするビジネス環境(税法、雇用法など)を独自で制定しているため、事業展開計画を行う際には制度の違いを理解する必要があります。税制の主な違いは所得税、売上税、失業保険税、動産税、固定資産税などが挙げられ、事業活動を行う州により会社へ掛かる負担も大きく異なります。
税金面での州別格差は、会社の運営に大きな影響を及ぼしますが、税制は単なる一つの要素であり、必ずしも所得税が無い州、または売上税が低い州が有利であるとは一概に言えません。そのため活動拠点を漠然と決めるのではなく、会社の戦略をもとに税制を含めたいろいろな要素を総合的な観点から検討する事が重要になります。