効果的に節税対策を講じられるとしたら殆どの方が躊躇なく行動を起こす事でしょう。しかし実際にはその殆どの節税対策の対象が企業や自営業者などの雇用主となっているため、サラリーマンの方が利用できる節税対策には限りがあります。今月は、雇用者の立場から簡単に且つ効果的に利用可能な節税方法を紹介したいと思います。
医療費支出口座とは
医療費支出口座(Flexible Spending Account、以下FSA)は雇用主が福利厚生の一部として従業員に提供する税引前医療費積み立てプログラムです。積立限度額はインフレ率を考慮し毎年調整され、2016年度の限度額はプログラム対象雇用者一人に付き $2,550 となっています。積立金に対し所得税および社会保険税が免除されるため、あらかじめ高額な医療費の出費が予想される年度に加入する等、上手に利用する事で節税効果が期待できます。
例えば 25% の実効税率で課税されている納税者が年間最高額の $2,550 を積み立てた場合、単純計算で約 $640 ($2,550 x 25%) の節税に繋がります。また節税効果以外に次の利点もあるため、医療費の出費が多い方には利用価値の高い制度と言えるでしょう。
[ 利点と特長 ]
- 税引前積み立て(所得税、社会保障税免除)
- 年間最高積立金額 $2,550(2016年度)
- 設定積立額以内であれば口座の残高に関係なく適格医療費の支払いが可能
- 適格医療費を支払う場合、積立金の引出しも非課税
- 本人以外の家族(配偶者または扶養家族)に対して利用する事が可能
- 積立額また支出額を個人所得税申告書に記載する必要が無い
適格医療費(Eligible Medical Expense)
FSAからの支払が認められる医療費の範囲はIRSが定めていますが、取り扱われる項目は雇用主が加入するプランごとに異なりますので、どのような医療費がFSA口座からの支払いとして認められているか詳細を確認する必要があります。一般的に次の項目が適格医療費として認定を受けています。
処方薬、診察費、人間ドック、レントゲン検査、手術費用、予防接種、一般歯科、歯科矯正、人工歯、視力検査、視力矯正器具、視力矯正手術(レーシック)、薬物中毒リハビリ、鍼灸治療、整体、救急車費用、入院費用、リハビリ、避妊治療、避妊薬、医療器具、バリアフリー用の建築リフォーム費用、介護犬、介護施設費用、マッサージ療法、酸素ボンベなど。(一部抜粋)
非適格医療費(Non-Eligible Medical Expense)
医療と関連性が低いだけでなく、任意的使用にかかる費用に対しては利用が認められないケースが多いようです。主な項目として市販薬、医療保険、美容整形、ビタミンなどのサプリメント錠剤、脱毛、エクササイズ(ジム、水泳、ダンスレッスンなど)、ダイエット関連、オムツ、大麻、性転換費用、衛生用品(歯ブラシ、髭剃り、石鹸、シャンプー)などが対象外となります。医療大麻に関しては大麻自体が連邦法で使用禁止薬物であるため、州レベルで使用が合法化されていても非適格医療費として支払対象外となっています。
[ 注意事項 ]
- 自営業者は加入できない
- 高額所得者また役員などの重要職に就いている方は制限がかかる
- 未消化の残高は没収される(残高繰越不可)
- 年度途中でプランの変更不可(転職、結婚、出産などの理由を除く)
- FSA口座から支払った医療費は項目別控除として申告できない
- 並行して医療費貯蓄口座 (Health Savings Account) を同時に開設できない
未消化の残高について
FSA口座に積み立てた金額は、基本的に年度内に全額使い切る必要があり、翌年へ繰越は認められていません。従って未消化の残高は全額没収されるため、俗に “Use it or Lose it” プランとも呼ばれています。
加入プランによっては猶予期間オプション(翌年度であっても、プラン年度末より最長 2ヵ月半以内に発生した医療費であれば利用可)もしくは制限付き繰越オプション(未消化残高のうち最高 $500 を翌年に繰越)のどちらか一つを利用できる場合もありますが、このようなオプション給付の有無、猶予期間や繰越金額の決定権は雇用主にありますから、加入時や年度末にかけて再確認する事が望ましいでしょう。
FSA口座に積立を行う場合には、利用可能な適格医療費の内容を確認すると共に一年間の医療費の予想金額を立て、適切な金額を積み立てる事が重要となります。仮に年度内に全額使い切ることが出来なかった場合でも、年度末に処方薬、視力矯正器具(眼鏡やコンタクトレンズ)、または医療器具(車いす、松葉づえ、包帯、補聴器、義肢、授乳機器、血圧計、体温計)などを買い置きする事で未消化分の積立金没収を回避する事も可能です。