先月は、雇用者が簡単に利用できる節税対策の一つを紹介しましたが、今月はここ数年人気が上がっている医療費貯蓄口座 (Health Savings Account、以下HSA) について紹介をしたいと思います。
医療費貯蓄口座とは
HSAは雇用主が福利厚生の一部として従業員に提供する税引前医療費積み立てプログラムです。加入者が税引前で医療費を積み立てできるメリットと同時に、加入条件として従業員が High Deductible の医療保険を選択する必要があるため、会社側の医療費負担を軽減する事を目的とした税制医療プログラムです。
先月号で紹介した医療費支出口座 (Flexible Spending Account、以下FSA) との大きな違いは、自営業者も加入する事ができ、積立金を福利厚生の一部として会社が捻出する事も認められています。積立金を投資口座で運用する事も認められ、適格医療費に対する引出しは元金を含む利子所得や譲渡益なども全て非課税扱いとなります。口座は就職先の会社ではなく加入者本人が直接管理するため転職へのしがらみもなく、残高が無くなるまで口座を保持する事ができます。
年間最高積立金額も高めに設定されており、2016年度の限度額はプログラム加入者一人に付き $3,350、一世帯 $6,750 積み立てする事ができます。25% の実効税率で課税されている納税者が年間最高額の $6,750 を積み立てした場合、単純計算で約 $1,688 ($6,750 x 25%) の節税に繋がります。節税効果以外に次の利点もあるため、医療費の出費が多い方には利用価値の高い制度と言えるでしょう。
[ 利点と特長 ]
- 税引前積み立て(所得税、社会保障税免除)
- 年間最高積立金額一人に付き $3,350、一世帯 $6,750(2016年度)
- 55歳以上の方は追加で $1,000 積立可
- 雇用主が積立金を福利厚生の一部として捻出する事も可能
- 適格医療費に対する積立金の引出しは非課税
- 本人以外の家族(配偶者または扶養家族)に対して利用する事が可能
- 口座は加入者本人が管理するため、転職へのしがらみが無い
- 残高が無くなるまで口座を保持できる
適格医療費(Eligible Medical Expense)
FSA同様、HSAからの支払が認められる医療費の範囲はIRSが定めていますが、取り扱われる項目は雇用主が加入するプランごとに異なりますので、どのような医療費がHSAからの支払いとして認められているか詳細を確認する必要があります。一般的に次の項目が適格医療費として認定を受けています。
処方薬、診察費、人間ドック、レントゲン検査、手術費用、予防接種、一般歯科、歯科矯正、人工歯、視力検査、視力矯正器具、視力矯正手術(レーシック)、薬物中毒リハビリ、鍼灸治療、整体、救急車費用、入院費用、リハビリ、避妊治療、避妊薬、医療器具、バリアフリー用の建築リフォーム費用、介護犬、介護施設費用、マッサージ療法、酸素ボンベなど。(一部抜粋)
[ 注意事項 ]
- High Deductible の医療保険に加入する必要がある
- 適格医療費以外に積立金を使った場合、20% の罰則金が徴収され、所得税も発生する
- 積立金を投資口座で運用する事も出来るが、元本は保証されない
- 並行して医療費支出口座 (FSA) を同時に開設できない