上昇し続ける物価と先の見えない経済活動が引き起こしたインフレより、一般家庭の生活はますます厳しい状況に置かれています。物価指数やインフレ変動に伴い毎年税制の調整が行われています。今月は高インフレ対策として先日発表された2023年度申告に関する主な税制調整事項の紹介と検証を行いたいと思います。
標準控除
標準控除の金額はインフレ調整に合わせて毎年増額されていますが、増額はほぼ数百ドル程度(伸び率約 1% から3%前後)に抑えられています。ところが今回発表された2023年度申告の標準控除は大幅に増額され、2022年度と比較した場合、増額は2倍以上で伸び率は約 7% にも上ります。
【申告身分別の控除増加額・伸び率】
- 独身者は $12,950から$13,850($900の増額、伸び率約 6.95%)
- 夫婦合算は $25,900から$27,700($1,800の増額、伸び率約 6.95%)
- 世帯主は $19,400から$20,800 ($1,400の増額、伸び率約 7.22%)
米労働統計局 (U.S. Bureau of Labor Statistics) 発表の消費者物価指数によると2022年の年間平均上昇率は、2022年9月末時点で約 8.6% となっているようですので、今回発表の増額分で十分対処できているのか疑問に感じられます。
税率
個人所得税の税率は、累進課税(課税所得の金額によって税率が変動するシステム)と呼ばれる7段階の課税方法が採用されています。現行の7段階に変更はありませんが、税率が適用される課税所得額の範囲が緩和されました。課税所得額が税率の適用範囲ギリギリの納税者は、今回の変更によって恩恵を受ける事が出来る仕組みになっています。
例えば、独身者で課税所得額が $90,000 の場合、2022年度申告の適用税率は 24% になりますが、2023年度は同額でも低い税率の 22% が適用されます。このように税率の適用範囲変更によって恩恵を受ける方がいる反面、課税所得額が中央値の場合、全く恩恵を受けない方もいると思われます。(例、独身者で課税所得額が $150,000 の場合、適用税率は両年度ともに 24%)また、税低税率および最高税率に変更はなく、それぞれ10%と37%の据え置きとなります。
2022年度 | ||
税率 | 独身者 | 夫婦合算 |
10% | $10,275 以下 | $20,550 以下 |
12% | 10,275 以上 | 20,550 以上 |
22% | 41,775 以上 | 83,550 以上 |
24% | 89,075 以上 | 178,150 以上 |
32% | 170,050 以上 | 340,100 以上 |
35% | 215,950 以上 | 431,900 以上 |
37% | 539,900 以上 | 647,850 以上 |
2023度 | ||
税率 | 独身者 | 夫婦合算 |
10% | $11,000 以下 | $22,000 以下 |
12% | 11,000 以上 | 22,000 以上 |
22% | 44,725 以上 | 89,450 以上 |
24% | 95,375 以上 | 190,750 以上 |
32% | 182,100 以上 | 364,200 以上 |
35% | 231,250 以上 | 462,500 以上 |
37% | 578,125 以上 | 693,750 以上 |
代替ミニマム税基礎控除
あまり知られていませんが税金の計算方法には二通りあり、納税者は通常の計算方法で算出された税額または代替ミニマム計算方法で算出された税額何れか多い方の金額を支払う仕組みになっています。代替ミニマム税は高所得者を対象とした税制で、所得に対して一定額の税負担を促す仕組みになっています。通常の税金算出に考慮される標準控除と同様に、代替ミニマム税も課税所得額から定額を差し引く基礎控除が設定されています。2022年度の伸び率が約 3% でしたので、今回の前年比増加は倍以上になります。
【申告身分別の基礎控除増加額・伸び率】
- 独身者は $75,900から$81,300($5,400の増額、伸び率約 7.11%)
- 夫婦合算は $118,100から$126,500($8,400の増額、伸び率約 7.11%)
- 夫婦個別は $59,050から$63,250 ($4,200の増額、伸び率約 7.11%)
401kの年金積立上限
会社が提供する401kなどの任意型年金積み立てプランは、税引き前所得から積立金を捻出する事が認められています。税金は定年を迎えて実際に年金を引き出す時に課税される仕組みになっていますので、税前積立金をフルに活用して資産を増やせるメリットがあります。
毎年 $1,000 づつ増加傾向にあった積立金の上限が、2023年に限り $20,500 から $2,000 増しの $22,500 になりました。税金繰り延べができる年金の投資資金が倍増される結果になりましたので、金銭的に余裕のある方はもちろんの事、多くの納税者が利用される事をお勧めします。